ここでは80年代英国のゴス/ポジパン界を代表するアルバムを紹介します。基本的に1アーティストにつき1作品のみで、選定にあたっては個人的嗜好が大いに反映されているので、この他にも優れた作品が多数存在することは言うまでもありません。厳密に言えば英国出身とはいえないバンドもありますが、細かいことは気にしない。とりあえず超有名どころの作品はこのページで大体網羅できるので、これからポジパンのドロ沼に足を踏み入れようとしている奇特な方々にとって参考になれば幸いです。 |
Alien Sex Fiend / Acid Bath (1984) バットケイブ・クラブから現れた異星人夫妻を中心とするバンドの 2nd 。人力ドラムと打ち込みビートを使い分けベースレスという変則的なバンド編成で、地下フロアに巣食うゾンビーな住人たちを躍らせるドラッギーなディスコ・パンクを展開。B級ホラー的な世界観は彼らならではの魅力で、白塗りメイクを施したニックの変態的なライブパフォーマンスも評判。しかも未だ現役活動中という陰ながら基重なアーティスト。 |
All About Eve / All About Eve (1988) The Mission のウェイン・ハッセイに見出された美貌の歌姫ジュリアンヌ・リーガンを中心とする4人組の 1st 。トラッド/フォーク的な要素が強い楽曲群は大自然の楽園的な情景を想起させるもので、哀愁を湛えた甘美なメロディーは抜群の完成度を誇る。ポストパンクというよりはプログレ文脈から語られることも多かった。よりアングラでゴシックな空気を求める人には、インディーズ時代のシングル集 『 Return To Eden 〜 』 がオススメ。 |
Bauhaus / In The Flat Field (1980) ポストパンクの旗手として登場し、後になってゴシック・ロックの始祖として崇められ、多くのフォロワーを生み出した伝説のバンドの 1st 。地を這うようなリズム隊にジャリジャリのギタープレイが絡みつく退廃的な世界観の中、ピーター・マーフィーのボーカルが強圧的に響く。全編に渡って圧倒的なパワーが漲っており、静けさの中にはヒリヒリした緊張感が漂う。次作以降は多彩な実験性を帯びてくるが、本作は純粋にパンクとしても絶品。 |
Cocteau Twins / Head Over Heels (1983) 「天使の歌声」の持ち主、エリザベス・フレイザーを中心としたバンドの 2nd 。耽美系で知られる 4AD レーベルの象徴的存在であり、時代とともに音楽性を明るく変化させ、後続のドリームポップ/シューゲイザー系のアーティストに多大な影響を与えたが、初期のサウンドは暗鬱なゴシック色を強く帯びていた。本作でのエリザベスは終始地声による歌唱だが、前作にはみられなかった叙情性と気品が備わった傑作である。 |
The Cult / Dreamtime (1984) 前身の Southern Death Cult 、Death Cult を経たバンドの 1st 。3rd アルバムで完全にハードロックに転身してアメリカでも大成功を収めるが、本作はまだポジパン的な要素を十分残していて、尚且つ楽曲は以前と比べて格段に洗練されて聴きやすい。熱くダイナミックに唸るギターサウンドに軽快な疾走曲、そして何よりこの界隈においては抜群の歌唱力を誇るイアン・アストベリーのハイトーン・ボーカルはバンドの持ち味だ。 |
The Cure / Pornography (1982) 永遠のカルト・ヒーロー、ロバート・スミス率いる大御所ニューウェイブ・バンドの 4th 。内省的で繊細なポストパンクだった前作までと比べ、本作ではサウンドの暗黒度と迫力が一段と増している。不気味に連打されるドラムのリズムに、暗い影を落とすシンセサイザーのベール、狂気の炎が揺らめく漆黒のサイケデリア。文学青年風だったロバート・スミスの顔も、この頃には立派なゴス・メイクになっていた。 |
The Damned / Phantasmagoria (1985) ダムドといえば、やはりパンクの名盤である 1st や 3rd が有名だが、この 7th アルバムはゴシック・オペラとでも呼ぶべき意欲作。ドラマチックな演出に彼ららしいポップセンスが融合し、デイヴ・ヴァニアンの吸血鬼のようなボーカルが真夜中の街に響き渡る。実はチャート的にも過去最高の成功を収めており、バンシーズやマガジン同様、パンク畑から徐々にアート志向を強めていった代表的なバンドなのである。 |
The Danse Society / Heaven Is Waiting (1984) 美男ボーカル、スティーブ・ローリングス率いるバンドの唯一のフルレングス・アルバム。バンドアンサンブルとエレクトロが融合したサウンドには気品と退廃が同居しており、Joy Division にも通ずる孤独な空気に包まれている。音楽的には大した共通点もないのに、当時は Sex Gang Children や Southern Death Cult と一緒にポジパン御三家と呼ばれていた。以後のシングルではディスコ路線に接近していくようだ。 |
Dead Can Dance / Dead Can Dance (1984) オーストラリアで結成され英国で活動した男女2人によるユニットの 1st 。音楽的にはギター主体の暗いポストパンクだが、次作以降で顕著になる宗教音楽/民族音楽風のリズムや旋律がこのアルバムで既に芽生えており、個性として際立っている。日常の下世話さとは無縁の神秘のオーラは鎮魂の儀式を思わせ、リサの歌声も彼岸へと導かれるようなイメージだ。Dead Can Dance 系と言われるように、後続バンドへの影響も絶大。 |
Death In June / Nada! (1985) ノイズ/インダストリアル界隈への人脈が深く、エクスペリメンタルともネオフォークとも呼ばれるバンドの 3rd 。アコースティック風の曲からエレクトロサウンドと機械的なビートが交錯する曲、そして宗教的な静謐を湛えたアンビエント調まで、アレンジは実験的かつ変幻自在。その上に乗るダークな歌メロにはゴシックロマン的な美意識が貫かれ、どことなく終末的なムードが漂う。そんな独自の音楽性はポストパンク時代ならでは。 |
Fields Of The Nephilim / The Nephilim (1988) オカルトマニア、カール・マッコイを中心とするバンドの 2nd 。マイナーコードのメロディーで進むシスターズ直系のサウンドだが、ギターはやや重厚でカール・マッコイのボーカルも濁声というように、実際はシスターズよりは攻撃力が高く、ホラー的な趣向も強い。疾走感のあるアルバム前半から歌唱性を強調してゆったりと流れていく後半まで楽曲の質は高く、ポジパンの隠れた名作である。シスターズのフォロワーだなんて言わせない!? |
Joy Division / Closer (1980) ボーカル、イアン・カーチスの自殺によって、拭いがたい神話性が運命付けられてしまったバンドの 2nd にして最終作。ゴシック・ロック、ポジティヴ・パンクといった呼び名が一般化する以前に、彼らは既に一部からゴシックと認識されていた。冒頭の2曲のように New Order 時代を思わせるディスコ/エレクトロ感覚も垣間見えるが、基本的には救いがたい負のエネルギーに満ちており、聴く者を精神の奥底へと引きずり込む。 |
Killing Joke / Killing Joke (1980) ジャズ・コールマン率いる生ける伝説バンドの 1st 。軋むような硬質ギター、恐怖を煽るようなコード進行、神経系を刺激するビート、そしてシンセを駆使した機械的な質感。ポストパンクをベースにしながらも、彼らを語る上で必要な音楽要素が原点であるこのアルバムで全て完成を見ているのが凄い。30年前の作品とは思えない鋭い輝きを放っており、インダストリアルやゴシックなど、今でも各ジャンルに影響を与え続けている。 |
The Mission / Gods Own Medicine (1986) アンドリュー・エルドリッチと喧嘩別れしてシスターズを飛び出したウェイン・ハッセイらが新たに立ち上げたバンドの 1st 。「退廃」や「陰鬱」ではなく、分かりやすい「泣き」のメロディーを押し出し、伝統的なハードロックサウンドに融合した彼らのスタイルは、ポジパン後期の新しいゴシック像として絶大な支持を受けることになった。ウェインのこぶしの利いた歌唱も、楽曲の叙情性とドラマ性を際立たせている。 |
Sex Gang Children / Song And Legend (1983) ポジパン御三家の一角を占めるバンドの 1st 。曲調はポップでパンキッシュ、演出はコミカルでホラー的、んでもって顔は白塗り。そんな彼らはまさにポジパンの中のポジパンだ。楽曲の方は、国籍不明の奇天烈メロディーや、テンポチェンジ頻出の変則的な展開が入り乱れ、次から次へとひねり出される奇抜なアイデアに圧倒される。そして何より、はっちゃけたアニメ声で歌いまくるアンディのボーカルは強烈なインパクト。 |
Siouxsie & The Banshees / Join Hands (1979) ニュー・ウェイヴ界の女傑、スージー・スー率いるバンドの 2nd 。最初の5作目まではどれもゴスの重要作だが、取り憑かれたような恐怖感、出口の見えない暗黒度の高さという点では、このアルバムが最強。徹底して不協和コードで進むギターは悲鳴のように響き渡り、乱打されるドラムは不吉なムードを助長する。突き刺すようなスージーのボーカルには、この世の全てのものを呪い狂わせるようなパワーが漲っている。 |
The Sisters Of Mercy / First And Last And Always (1985) 独裁君主アンドリュー・エルドリッチ率いるゴシック界を代表するバンドの 1st 。暗いメロディーに、くぐもった低音ボーカル、冴えない歌詞といった風に、アルバムのどこを切っても負のエネルギーが滲み出てくる。これ程までにネガティヴなベクトルに特化した音楽は他にそうそう見当たらない。バンドアンサンブルの中にあえてドラムマシンを導入した点でも画期的だ。ウェイン・ハッセイ在籍時の黄金メンバーが生み出した黒い芸術の結晶。 |
Southern Death Cult / The Southern Death Cult (1983) The Cult の前々身のバンドが残した唯一のアルバム。ボーカルのイアン・アストベリーはこの頃はインディアン風の白塗りメイクを施しており、楽曲の方も原始的なドラミングと荒廃したギターサウンドが織り成す暗いポジパンだ。ハードロック化が進行する The Cult 時代と比べると、親しみやすいメロディーは少なく単調さが先行するが、The Cult には無い荒削りな魅力があり、イアンの歌唱も既に雄々しい個性を放っている。 |
Specimen / Azoic (1997) 当時のゴス達が集うナイトクラブ「バットケイブ」の主催者だったバンドのベスト盤。バンドサウンドにキーボードを取り入れた彼らの楽曲は、グラムロックからの影響を感じさせるもので、ダークな曲調の中にもノリのよい陽性のポップセンスが根付いているのが特徴だ。顔面ひび割れメイクや黒網タイツルックといった華やかで毒々しいビジュアル面も彼らならではで、エンターテイメントとしてポジパンを体現した代表選手である。 |
Virgin Prunes / ...If I Die, I Die (1982) アイルランド出身の前衛アート集団の 1st にして代表作。彼らは音楽や文学や演劇をひっくるめた総合芸術を志しているため、音楽は表現手段の一形態として捉えるべきかもしれない。このアルバムは祭祀的な演奏スタイルにお経のようなボーカルが絡みつく妖怪ワールド全開な内容で、個性派ポジパンとして楽しめる。それでもやはり視覚的なライブパフォーマンスと併せて体感することで、その魅力は倍増されるだろう。 |