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ダーク・メルヘン世界への扉


 ダーク・メルヘン。 それは、ある種の毒気を含んだおとぎ話の空想世界。

 思うに、このような趣向を最も分かりやすく体現している物語といえば、19世紀の英国の作家ルイス・キャロルの代表作 『不思議の国のアリス』 を差し置いて他にないだろう。 主人公の少女アリスがウサギさんの後を追って秘密の穴の中に入っていく・・・というストーリーは、たとえ最後まで読んだことはなくても、 その世界観は誰でも頭の中に描けるに違いない。 それほどまでに有名な 『不思議の国のアリス』 は、まさに(ダーク)・メルヘンの象徴とでも言うべき存在だ。
 ちなみに、作家のルイス・キャロルは成人の女性には全く興味を示さず、少女だけをこよなく愛し、その生涯を独身で貫いたという、 筋金入りのロリコンだった、というのは有名な話。彼の周りには常にたくさんの幼い 「おともだち」 が取り巻いていたという。 でも大丈夫、彼はその 「おともだち」 に対して法に触れるようなイケナイことは決してしなかったというので、このおじさん安心だネ☆

 本題に入ろう。音楽の話。 要は 『不思議の国のアリス』 を彷彿とさせる乙女的でゴス的で童話的なアルバムを、そのルーツから現在のシーンに至るまで探し集めてメルヘンな気分に浸ろう!という企画なのです。 一応説明しておくと、notable track の曲名をクリックすると Youtube へ飛んで PV を試聴できるようになっています。 あと参考までに、とりあげるアルバム毎にメルヘン度、ロリータ度、ゴシック度の各音楽要素を、管理人の独断と偏見で判定してみました(笑)
 さーて、それではウサギさんの穴へようこそ〜


本編 〜 乙女なメルヘン 〜


 ルーツを探求するにあたり、「ゴス」 なる観念抜きにしてダーク・メルヘン音楽は誕生し得ない、 と勝手に仮説を立ててみると、そのターゲットをパンク以降に絞ることができよう。 (ぶっちゃけ管理人はパンク以前の音楽に関して全くもって疎いんで♪)  女性のゴス系アーティストとなると、最初に挙げるべきはあの人か・・・



Siouxsie & The Banshees / A Kiss In The Dreamhouse (1982)
notable track #6 「 Melt!

メルヘン度 ★★★☆☆
ロリータ度 ☆☆☆☆☆
ゴシック度 ★★★★

 ということで、こちらスージー姉さん率いるバンドでござい。 時代とともに音楽性を変化させたスジバンの中でも、この 5th アルバムは幻想的なコラージュ・サウンドに、とろけるような耽美メロディーが満載だ。 おまけにジャケットもクリムトの絵画みたいでメルヘン!  それなのに、このアルバムが 『不思議の国のアリス』 的な世界観とは微妙にずれているのは ・・・きっとそうだ、スージーが 「乙女」 と呼ぶに相応しくないキャラだから (むしろ魔女)。 やっぱり物語の主人公は可愛らしい乙女じゃないと。 だから最初はこのアルバムを載せるのはやめようかと思ったけど、 「私がいなかったら、あいつもこいつも出てくるはずがなかったのよー!」 てなスージーの怒りの声が聞こえてきそうなので、 ここはゴスの女王に敬意を払ってトップにもってきた次第。



Strawberry Switchblade / Strawberry Switchblade (1985)
notable track #1 「 Since Yesterday

メルヘン度 ★★★★★
ロリータ度 ★★★★
ゴシック度 ★★☆☆☆

 スージーの影響下で、煌びやかなメイクを施した女性アーティストが続々と現れた80年代半ばの UK ニューウェイブ・シーン。 その中で流れ星のごとく一際眩い光を放ったのが、ジルとローズの2人組ユニットであるストロベリー・スウィッチブレイドだ。 彼女たちのメランコリックな歌メロがキラキラのシンセ音と色とりどりな水玉模様と一緒に弾ける 80's エレポップ・サウンドは実に美味しく、 ゴリゴリのメタル好きの管理人も不覚にもハマりました(笑)  このアルバム1枚のみで解散したため、まさに一発屋で消えてしまったが、 当時としてもそのインパクトは大きかったようで、今では元祖ゴスロリ系ミュージシャンとしての評価を確立している。 でもアー写をよーく見ると、二人とも実は若くないので、ロリータ度は1点減点で星4つ。



Switchblade Symphony / Serpentine Gallery (1995)
notable track #7 「 Dollhouse

メルヘン度 ★★★☆☆
ロリータ度 ★★☆☆☆
ゴシック度 ★★★★★

 こちらは、中世の暗黒仮面舞踏会から飛び出してきたような、アメリカ出身のガールズ・デュオ (+演奏隊) の 1st アルバム。 「スウィッチブレイド」 繋がりでバンド名が似ているので、ストロベリー・スウィッチブレイドに対するアメリカからの回答?と思いたくなるが、 彼女たちの場合はイチゴのような甘酸っぱいメロディーは無し。 押入れに忘れ去られたオモチャ箱の中で、ぜんまい仕掛けのお人形が夜な夜な動き出すような不気味系懐古サウンドは、 80年代のポジティヴ・パンクと昨今のトリップホップの橋渡しとでもいうべき、独自のポジションを築いている。 ここ日本ではほぼ無名の存在だが、1999年の解散までに3枚のアルバムを残しており、アメリカのゴス・シーンでは結構人気があったのかもしれない。
 で、この曲の PV だけど、後述する The Birthday Massacre の 「 Blue 」 の PV が途中何回か挿入されているんだな。 言われてみると、双方のボーカルとも顔のメイクがそっくりな気がしてきました。



Björk / Post (1995)
notable track #2 「 Hyper-Ballad

メルヘン度 ★★★☆☆
ロリータ度 ★★☆☆☆
ゴシック度 ☆☆☆☆☆

 ビョークですよ、ビョーク。The Sugarcubes 解散後のソロ2作目。何でこの人が?って思うかもしれないけど、 テクノ・ロック・フォーク・ジャズ・クラシックなどを丸ごと飲み込んだ独創的なポップ・サウンドは、 遊び心が散りばめられた仮想空間といった印象で、ある意味メルヘンかも。 演出面ではそうでもないが、そのボーカル・スタイルだけに着目すると、このページで紹介している誰よりもロリータ的だったりするので、あながち的外れな選出でもないと思う。 しかーし、ビョーク自身その奇行の激しさは有名で (怒ると殴り掛かったり、噛み付いたりする)、「乙女」 とは到底言えないのが難点。



Goldfrapp / Black Cherry (2003)
notable track #8 「 Strict Machine

メルヘン度 ★★★★
ロリータ度 ★★★☆☆
ゴシック度 ★★☆☆☆

 英国のトリップホップ・シーンから登場したファッション・リーダー、アリソン嬢と裏方ウィルおじさんの2人組。 アルバム毎に作風をころころ変化させるゴールドフラップだが、この 2nd アルバムはジャケもサウンドも素晴らしくメルヘン! 80年代ディスコをモダン的手法で再構築したようなダウンテンポのエレクトロ・サウンドには、 キュートでコケティッシュな魅力とデカダンなムードが不思議と同居しているのだ。 描いている世界は完璧なだけに、あとは主人公のアリソン嬢がもう少しだけ若 (略)



Jakalope / It Dreams (2004)
notable track #1 「 Feel It

メルヘン度 ★★★★
ロリータ度 ★★★☆☆
ゴシック度 ★★★☆☆

 インダストリアル界からメインストリームのポップ・シーンに触手を伸ばしたプロデューサー、デイヴ・オギルヴィ先生の戦略商品ジャカロープ。 角がニョキっと生えて鼻血ブーなウサちゃんジャケがコワかわいい本作は、 ロック色とエレクトロ色とゴシック色がいい塩梅でブレンドされていて、ただのメルヘンに終わらず、ちゃんとダーク・メルヘンになっているのが高ポイント。 新人ボーカル、ケイティ・B も甘い歌声でその存在感をアピールしていたが、次作を最後にバンドから脱退してしまった。 その後、ナチュラルなフォーク・ミュージックをやっているところを見ると、彼女も結構無理してキャラを演じていたのかな〜と勘ぐりたくなる。



The Birthday Massacre / Violet (2004)
notable track #7 「 Blue

メルヘン度 ★★★★
ロリータ度 ★★★★
ゴシック度 ★★★★

 カナダから現れたインダストリアル・ゴシック・メタル・バンド、「お誕生日に大虐殺」 の 2nd アルバム。 ヘヴィなメタル・サウンドがピコピコ・フワフワなシンセ音でコーティングされる楽曲は、 ドリーミーでファンシーな魅力に溢れる反面、この曲ではボーカルのチビ嬢のデス声が聴けたりと毒気もバッチリ。 とってもメルヘン、しっかりロリータ、んでもってなかなかゴシックと、三拍子揃ったメトロポリス・レーベルの逸材だ。 彼女たちの紫色の世界がチャートの上位を賑わす日もそう遠くないかもしれない。

 ・・・さて、以上管理人の守備範囲内で思いつく限り挙げてみたが、 ある程度名前が通っているダーク・メルヘンな作品(及びアーティスト)って、思いのほか見つからないものだ。 (探せばもっとあるのかもしれないが・・・)  それくらい 「ダーク・メルヘン」 はまだまだマニアックな音楽ジャンル(?)なのかもしれない。
 音楽的な共通点について考えてみると、どれも一応ポップス/ロック系のアーティストながら、エレクトロ・サウンドの比重が大きい気がする。 いくらギターが表現力に優れた楽器でも、通常のバンドサウンドのみでは 『不思議の国のアリス』 的世界を描くのはやはり困難で、 多彩な音色やエフェクトを繰り出せるシンセサイザーの味付けが必要となってくるのだろう。
 あと補足すると、エレクトロ系の中でもインダストリアル的な趣向を持ったアーティストも少なくないように思える。 インダストリアル音楽が内包するある種の毒性には、「ダーク・メルヘン」 のダークな部分との親和性があるのかもしれない。


番外編 〜 男だってメルヘン 〜


 ここまでは女性アーティストの作品ばかりを並べてみたが、男だって童話の主人公になってもいいじゃん、男女平等! ということで、男性アーティストによるダーク・メルヘン音楽を探してみたい。・・・と思ったのですが、これがなかなか見つからんのです。 やっぱり男は筋肉と怒りのエネルギーに任せてヘヴィな音楽をやらねばならない、と神様がお決めになったのでしょう。 まあそれでも、手持ちの音源から頑張ってこっちの世界から遠くないものを探してみたので、幾つかご紹介。



Magazine / Real Life (1978)
notable track #7 「 The Great Beautician In The Sky

 元 Buzzcocks のハワード・デヴォートが結成したバンドの 1st アルバム。 前半の曲はいかにもな疾走ポストパンクが多いけど、後半の方はキーボードがいい感じで効いてきて、これはなかなかメルヘン。 序盤が3拍子のこの曲は、大正ロマン的な雰囲気と捻くれたボーカルが織り成す退廃メリーゴーラウンド・サウンドが秀逸。



The Smashing Pumpkins / Mellon Collie And The Infinite Sadness (1995)
notable track (Disc1) #2 「 Tonight, Tonight

 スマパンの大ヒット 3rd アルバムは、ビリー・コーガンの趣味なのかインナーのブックレットにも童話的な挿絵が満載。 ファンの間でも人気の高いこの曲は、壮大なオーケストラが導入された夢物語の序曲となっていて、PV のイメージがまた良い。 でもこれ以外の曲は、彼らの十八番とでもいうべき轟音ギターが炸裂しまくるオルタナティブ・ロックが多いので、 そういう意味ではエレクトロに接近して陰影を増した次作 『 Adore 』 の方がまだダーク・メルヘンと呼ぶに相応しいかも。


以上、2つ並べてみたが、

ここで行き詰る管理人。

他にないかな〜?

・・・・・・

・・・・・・

・・・・・・

ちょ、



これはっ

見つけた!







Korn / See You On The Other Side (2005)



これぞ、ダーク・メルヘン!!!(笑)


 しかし、肝心の音の方はゴリゴリのモダン・ヘヴィネスで全然メルヘンじゃなかったという見掛け倒し・・・。
あ、こうやって今書いてて思ったけど、Korn の 4th アルバム 『 Issues 』 なら、中身もそこそこダーク・メルヘン的かと思われます。

 ・・・てか、いい加減にこんなことばっか書いてると、頭の中が空想の世界から抜け出せなくなりそうで危ないから、そろそろ現実世界に戻るとしよう。

夢から覚める