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All About Eve


 ポジティヴ・パンク廃れ行く80年代末の英国音楽シーンに咲いた暗黒の妖花、オール・アバウト・イヴ。紅一点の美人ボーカリスト、ジュリアンヌ・リーガン ( Julianne Regan )を中心に結成され、85年に自主インディ・レーベルである EDEN から 「 D For Desire 」 でシングルデビュー。暫くして The Mission のウェイン・ハッセイに見出され、彼らのサポートバンドを務めるなどして知名度を上げていき、遂にメジャーの Mercury Records と契約。流動的であったラインナップも、この頃にはジュリアンヌ、ギターのティム、ベースのアンディ、ドラムのマークの 4人編成に定着しています。その音楽性はゴシックからフォーク、トラッド、ひいてはハードロックからプログレまでをも内包し、バンドが解散した今も幅広い音楽ファンから静かに支持されています。でも管理人のような20代の輩が後追いで夢中になるケースは珍しいかも。

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1988年
1st アルバム
推薦盤
All About Eve

 インディーズで6枚のシングルを発表し、満を持してメジャーデビューの 1st アルバム。The Mission のウェイン・ハッセイ( vo )やミック・ブラウン( d )がゲスト参加しており、当時はまさに「女性版ミッション」として迎えられたようです。プロデュースは、元 The Yardbirds のベーシスト、ポール・サミュエル・スミスが手掛けており、そのためか、悪魔や黒魔術など「死のイメージ」をモチーフとした他の(頭悪そうな)ポジパン勢とは異なり、英国の古き良き伝統が根付いているのが特徴的。そして何より、ジュリアンヌの憂いを湛えた甘美な歌メロ! やはりコレに尽きる。彼女は決して歌が上手いとは言えないのに、何か聴き手を引き付ける魅力があるんですね。それは一体何か? ルックスか? きっとそうだ、間違いねぇ(笑) だって、この声で顔がスージーだったらオレ絶対嫌だもん。・・・まあそれはさておき、このアルバムですが、収録曲はシングルの寄せ集めのため、統一感こそ欠けるものの、疾走ネオサイケからアコースティック/トラッド調、そしてバラードまで様々なテイストが満喫できます。全英7位の大ヒット作。
注目曲 : #9 「 Wild Hearted Woman 」
 個人的ベストトラック。美しく力強いメロディー、サビのコーラスがたまらん。しかも最後のサビメロは AAE にしては珍しくキーが半音上がるのだ。

 1st アルバム の12曲目 「 What Kind Of Fool 」 。派手さは無いけどドラマチックな展開と優しさに溢れた佳曲です。この曲の PV は初期のバンドイメージを大切にした秀逸な内容で、ラファエル前派の絵画のような情景の中で歌う美しいジュリアンヌの姿! 良い!!

というか、この動画はちょっと前まで YouTube に落ちてなかったのよね。



1989年
2nd アルバム
推薦盤
Scarlet And Other Stories

 前作に引き続きポール・サミュエル・スミスがプロデュースしていますが、ウェイン・ハッセイは不参加。この時点でミッションとの繋がりは弱くなった模様。それに伴い、作風もネオサイケ&ポストパンク色が完全に抜け、牧歌的な情景を描くアコーステイックな感覚のアルバムに仕上がりました。その反面、時々ギターが鳴ると何気にメタリックだし、雄大なギターソロが飛び出す場面もあり。プログレ的な要素も濃いです。実際この頃 AAE の音楽は「メタルフォーク」と呼ばれたりしたそうな。「フォークメタル」じゃなくて「(やけに)メタル(な)フォーク」かい、言い得て妙ですね。トラッド色を交えた癒しのメロディーは前作にも増して極上で、ツボに嵌れば、捨て曲どころか捨てメロすら無いですよホント。Cocteau Twins の 『 Victorialand 』 が「天上の楽園」なら、このアルバムは「地上の楽園」といったところか。やや80年代的な感覚はありますが、かなりの名盤だと思います。甘美なフォークアルバムが聴きたい人には大プッシュ。
注目曲 : #5 「 December 」
 7分を超えるプログレチックな大曲で AAE の最高傑作。とにかくメロが素晴らしいのですが、終盤で飛び出すクラシカルなギターソロも絶品。

 こちらは 2nd アルバム の 1曲目 「 Road To Your Soul 」。彼女たちの中ではハードロック色が強い曲です。PV の方は、まるで映画 『ロード・オブ・ザ・リング』 に出てくるホビット族の村のような楽園的情景に、メンバーのファッションセンス。愛と平和を重んじ、豊かな大自然の中で自由に生活する、そんなユートピア的なイメージで売り出したところ、この頃の彼女たちは「ネオヒッピー」とも呼ばれるようになりました。それにしても、この PV は癒されますね。



1991年
3rd アルバム
Touched By Jesus

 前作を最後にティムが脱退(後にシスターズに加入)、後任に The Church のギタリストである Marty Willson-Piper を迎え、レコード会社を Vertigo に移籍しての 3作目。ピンク・フロイドのギタリスト Dave Gilmour も一部ゲスト参加しています。ここにきて 1作目・2作目で顕著だった牧歌的雰囲気はすっかり影を潜め、マイルドなギタープレイによる何というか、普通っぽいロック/ポップ・アルバムに仕上がりました。メランコリックなジュリアンヌ節は相変わらずですが、若干メロが弱い気がするんですよね。地味な印象は拭えません。本作はセールス的にも振るわず、結果として Vertigo から離脱することに。
注目曲 : #1 「 Strange Way 」
 王道ジュリアンヌ節の哀愁メロです。王道!王道!

Ultraviolet

 レコード会社を米 MCA に移籍しての 4作目。時代はマンチェ/シューゲイザー ・ブーム吹き荒れる90年代初頭、時流を意識したのか、AAE もシューゲイザー路線へと大胆なモデルチェンジを試みました。以前のクラシカルなプレイが嘘みたいな、シュワシュワホワホワとエフェクト効かせまくりの実験的・複層的なギターサウンドです。おまけにジュリアンヌのボーカルも、サワサワのウィスパーボイスに様変わりしていて別人状態。どうしたジュリアンヌ? 眠いのか?! ってな勢いで、発売当時は物議を醸したそうな。メロディー的にも甘く気だるく浮遊的なイメージで、これまでのセンスとは別もの。個人的には、AAE にはこっちの UK ロック路線には進んで欲しくなかったなぁ。心にググッと染みる哀愁メロ! 溢れ出るエモーション! ジュリアンヌの瑞々しい歌声! ヒッピー族の楽園的情景! 間違えねぇ、これが AAE の本質だった筈だ! 納得できねぇぇぇ・・・と、当時のファンも思ったのか(?)、本作もセールス的には失敗。しかし、今となっては評価もそれなりに見直されているようで、実際そんなに悪いアルバムじゃないです。マイブラや Slowdive 好きなら楽しめるんじゃないかと。


1992年
4th アルバム
注目曲 : #9 「 Some Finer Day 」
 メジャーコードに転調する軽やかなサビがイイ。このアルバムで一番好きかも。

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 『 Ultraviolet 』 リリース後、バンドはすぐに 5枚目のアルバム制作に取りかかりましたが、その途中でジュリアンヌが脱退を表明、主役を失ったバンドは解散を余儀なくされました。作りかけの楽曲たちは、残りの3人のメンバーの手によって完成され、4年後の 97年に 『 Seeing Stars 』 というタイトルと同名のバンド名にてようやく日の目を見ることになります。ジュリアンヌは暫くは不安定な活動状況でしたが、95年からは Mice を結成して 『 Because I Can 』 もリリース。(このアルバムはブリットポップとグランジを融合させたようなキュートなギターポップです。) しかし別バンドを立ち上げておきながら、AAE 時代のメンバーとも普通に交流があり、それならばと思ったのか、99年に AAE は再結成。アコースティック主体で 04年までその活動は続きました。この期間中、バンドは多数のライブ盤やコンピ盤を出していますが、その中の幾つかをご紹介。



2002年
コンピレーション盤
Return To Eden, Volume 1 : The Early Recordings

 自主インディレーベルである EDEN 時代のシングル&デモ音源集。メジャーデビュー前のシングルはかなりの高値で取引されているらしく、ファンには嬉しい一枚です。メジャー以降のアルバムからではなかなか理解できませんが、初期楽曲である #1 〜 #5 を聴けば、AAE がゴシックロックと呼ばれるのも納得。デビューシングルである #1 「 D For Desire 」 なんか、鬱蒼とした森を彷徨うような雰囲気で、メロもギター音も露骨にゴスゴス、お気に入り。それでも、スジバンやコクトー・ツインズの初期と比べたらマトモで聴きやすめ。「 Flowers In Our Hair 」を筆頭に、再録されて 1st アルバムに収録された曲も多く、インディ時代で既にゴスの域に収まらない音楽を展開していたことが窺えます。ジュリアンヌの歌唱はというと、やや不安定で垢抜けない感じですね。
注目曲 : #15 「 Paradise (B-Side) 」
 メジャー時代のアルバムに収録されなかったのが勿体無い、影の名曲。タイトルに違わず「エデンの園」的な美しさです。

Keepsakes - A Collection

 念願の 『 Keepsakes 』 を手に入れたヤッター!! それも DVD 付き限定盤。偉いぞアマゾンドットコム! 新曲や未発表音源の存在など気にも留めず、CD より DVD を先に読み込ませ、稲妻のごとく再生ボタンを押す管理人(笑) シングル曲の PV とライブ映像が満載でござるのだ。で、思ったんですけど、ジュリアンヌこの人ってメイクやヘアスタイルで全然雰囲気変わりますね。予備知識が無ければ同じ人とは思えません。オレ的には 「 Flowers In Our Hair 」 や 「 Road To Your Soul 」 のヒッピー路線の PV が好きでした。ライブ映像はどれも Top Of The Pops とかの英国テレビ番組でのパフォーマンスですが、期待してたほどライブらしい臨場感は感じられず大人しい内容(てか、口パク?)。まあしかし、どちらにせよジュリアンヌ好きにはヨダレものの一品です。有難うございました。
 ・・・あ、肝心の CD の方ですが(笑)、Disc1 は 1st と 2nd から、Disc2 は 3rd と 4th からの曲が中心で、マニアには嬉しい別録音源や未発表曲、その他近年制作された新曲が程良いバランスで収録されています。新曲の方は Mice をヘヴィにしたようなオルタナ系ロックですが、正直このラウドなギター音がジュリアンヌの歌声に馴染んでない気がして微妙。歌唱力自体も明らかに落ちてるし。それと・・・まあアレだな、AAE が好きな人は近年のライブ映像とかはあまり見ない方が良いと思います(この DVD には無いけど)。分かっちゃいるけど、軽く幻滅するよなあ。


2006年
コンピレーション盤
注目曲 : Disc1 #3 「 Calling Your Name 」
 「 In The Clouds 」 の12インチ収録曲ですが、アルバムには未収録だから割とレアな存在価値。ゴシックの香り漂う疾走ネオサイケで、サビのコーラスがイイ。てか、このバンド、もしまだ未発表曲とかあるなら隠してないで早く出してくださいな・・・と思う反面、いつまでも謎のベールに包まれていて欲しいとも思ったり。