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Cocteau Twins


 80年代から90年代半ばにかけて活躍したスコットランド出身のオルタナ系ロックバンドであり、当時の 4AD レーベルの看板アーティスト。女性ボーカリスト、エリザベス・フレイザー ( Elizabeth Fraser ) の清く美しい歌声は「天使の歌声」と称され、シンセサイザーとギターを複層的に融合した幻想的なサウンド面と共に、独自の個性を放つ存在です。デビュー当時はゴシックの影を落とした暗黒サウンドだったものの、徐々にその音楽性を明るく変化させ、1992年からはメジャーの Fontana に移籍。世界レベルの知名度を得て、後続のゴス系やシューゲイザー系のアーティストに多大な影響を与えました。
 ところで、コクトーツインズの CD ジャケットのデザインはシングルも含めてどれも上品でセンス抜群。オリジナルを収集したくなるマニアの気持ちがよく分かります。詳しくはこちら、「コクトー・ツインズ ジャケ絵の館」へどうぞ。

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 バンドの歴史は、1979年にギターのロビン(後にエリザベスの旦那になる)とベースのウィルが結成、そこにエリザベスが加わり、3人組としてスタート。1982年にインディ・レーベル 4AD より EP 「 Lullabies 」にてデビュー。この頃は Siouxsie & The Banshees のようなポジパン・フォロワーと見做されていました。右の動画は 1982年のライブ映像「 Hazel 」。廃墟ギターと呪術ビートの取り合わせが初期 Killing Joke を彷彿とさせます。エリザベスの歌声も子供のようなあどけなさ・・・ていうか、正直コレ、歌い方キモ過ぎですね(笑) あとモヒカン頭も。当時まだ19歳ですか。若ぇ。



1982年
1st アルバム
Garlands

 そんな初期のバンドの歴史を知らずにうっかり手にすると度肝を抜かれること必至の1作目。単刀直入に言えば、これは幽霊の館の BGM です。終始ゴスゴスドロドロ、カビ臭いのなんの。エリザベスのボーカルもまだ表現力に乏しく冷たい響きで、時々引きつったように声を震わせる、誠に個性的な歌唱法。いや、この際もっとはっきり言ってしまおう。歌い方オカシイです! これはもう、柳の木の下に出現する妖怪。しかし、これがバックの薄気味悪い演奏とマッチしてるんですよ。ベース音は井戸の底でゴボゴボうねる感じで、ワ〜ンワ〜ンと鳴り続けるギター音は霧のように視界を遮り、淀んだ空気が辺り一面に充満して、息が詰まりそうな閉塞感を覚えます。んでもって、ドラムマシンの音質はクッキーの缶箱を叩くがごとく、チャカポコペンペンゆってて至極チープ。相当イっちゃってる音楽ですけど、個人的には密かに、いや、堂々とお気に入り CD 。いつまでもタンスの奥深くにひっそりと安置しておこう。
注目曲 : #5 「 Shallow Then Halo 」
 この辺りが最もドロドロで強烈。

Head Over Heels

 ベースのウィルが脱退し、エリザベスとロビンの2人組となったコクトー・ツインズですが、この2作目でブレイク。イギリスのインディチャートで半年に渡って断続的に1位の座をキープした初期の傑作です。このアルバムは、一本調子の底無し泥沼サウンドだった前作と比べると、風通しが格段に良くなっていて、サウンドもメロディーも美しく叙情的になりました。耽美ゴシック。お金が貯まって新しい機材が買えたのか、ドラムマシンの音質もバシッと向上。ギュワ〜ンと悲鳴を上げるギターは、まさにシューゲイザー系の祖先です。曲調にも幅が出てきて、#3 「 Sugar Hiccup 」の開放的なメロディー、#4 「 In Our Angelhood 」の8ビートのノリノリ疾走感(速いコクトー最高!!)、そして #8 「 Multifoiled 」のジャジーなアレンジまで使いこなし、エリザベスのボーカルにしても活き活きとした表情が付いてきました。とはいえ、次作以降の「天使の歌声」は本作ではまだ聴けません。なお、これ以降の作品ではエレキギター音が脇役に回るので、ポジパン・コクトーの歴史はこれにて終了。


1983年
2nd アルバム
推薦盤
注目曲 : #10 「 Musette And Drums 」
 号泣メロディーを洪水のようなゴージャスなギターが覆い尽くす鬼名曲。終盤で飛び出す悲鳴のようなギター音もイイ。



1984年
3rd アルバム
大推薦盤
Treasure

 新たにベースのサイモンが加入し、トリオ編成に戻ったコクトー・ツインズ。こちらはインディーズで大ヒットを記録し、全英チャートでも Top 30 にランクインしたバンドの代表作です。ここにきてエリザベスの喉に革命が起きたのか、そのボーカルは今までとは明らかに違う、やさしく囁くような「天使の歌声」に様変わり。 #1 「 Ivo 」の冒頭から鳥肌モノです。ギリシャ神話をモチーフとした本作は、親しみやすさを感じさせながらも、人里離れた森の奥深くに迷い込んだような神秘的な雰囲気で、鬱蒼とした木々、やさしく差し込む木漏れ日、小川の水のせせらぎ、妖精たちの戯れ・・・・・・・そんな情景の宝箱のような作品。全編に渡ってゆったりとしたリズム感で、ノリのいい曲は皆無ですが、ドラムマシンの音は相変わらずボカスカいってるし、たまーにギターがギュワ〜ンって遠くで鳴ったりして、うるささも兼ね備えてるのもミソ。その点、このアルバムはヒーリング音楽ではなく、ロックしていると思うのです。エリザベスも「天使の歌声」ばかりじゃなく、今までのように地声でワーワー歌ったりで、そのコントラストも絶妙。メロディーやバランス感覚にも磨きがかかり、 #4 「 Persephone 」 や #8 「 Cicely 」 ではゴスの雰囲気を残す一方、#5 「 Pandora 」 や #7 「 Aloysius 」 では一点の曇りもない透明感を演出し、バンドの変幻自在な個性が開花しています。捨て曲無しの傑作アルバムで、激オススメ。
注目曲 : #2 「 Lorelei 」
 ドラムマシンのリズムに乗せた極上のメロディー、そして幸福な鐘の音色。おそらくコクトー・ツインズで一番人気ある曲じゃないかな。

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 この頃、コクトー・ツインズのメンバーは、4AD のボス Ivo Watts-Russell が主催する音楽プロジェクト This Mortal Coil に参加。84年の作品では、エリザベスは Tim Buckley の曲 「 Song To The Siren 」のカバー等で、高い評価を得ました。
 85年のコクトー・ツインズの世界ツアーでは、初めての来日を果たしましたが、エリザベスはその時の群集の野次馬ぶりや、蒸し暑い気候、それ以外にも 3rd アルバム 『 Treasure 』 に対して勝手に「神々が愛した女たち」なる邦題を付けられたこと等々について困惑していたようで、インタビュー(公式サイトに掲載)を読む限り、当時は日本に対する印象はあまり良くなかった様子。(右の写真は、ニューウェイヴ系音楽誌だった頃の Fool's Mate の表紙を飾るエリザベス・フレイザー)



1986年
4th アルバム
推薦盤
Victorialand

 ベースのサイモンが This Mortal Coil の 2nd アルバムに関わっていたため、再びエリザベスとロビンの2人によってレコーディングされた4作目。今回はドラムレスで、極上の歌声とアコギサウンドが織り成す、神々しいアンビエント作品です。そのメロディーラインにはトラッド系からの影響も窺わせ、一部の曲では Richard Thomas なる人物のサックスをフィーチャー。残響音を強調したレコーディング(サスティーンと呼ばれるみたい)により、アコギ一本でも格別の美しさで、そこいらのヒーリング音楽とは一線を画しております。世俗的な人間臭さと無縁な様は、まさに天上の調べで、この世の時間軸からも解放されるような気分・・・・・ですが、演奏は全9曲32分でバッチリ終了。フルレングスの割に短いのは、音質へのこだわりのためオリジナルが33回転ではなく45回転で発表されたからだそうな。本作をバンドの最高傑作に挙げる人も多く、確かに純粋にメロディーの美しさなら 『 Treasure 』 や 『 Heaven Or Las Vegas 』 より格上かも。
注目曲 : #7 「 Feet-Like Fins 」
 ジャラ〜ン ジャラ〜ン というギターの反復が極上。パーカッションが登場する中半部ではエリザベスの歌声も力強く変化。

The Moon And The Melodies

 サイモンがバンドに復帰して、アメリカの現代音楽家でピアニスト、ハロルド・バッド( Harold Budd )と共同で制作された作品。厳密に言えば本作は「コクトー・ツインズ」というバンド名ではなく、めいめいの個人名でクレジットされています。共作者のハロルド・バッド氏はアンビエント音楽が専門だそうで、その手の先駆者であるブライアン・イーノとの共作でも有名だとか。ちゃんと調べた訳ではないですけど、全8曲の収録曲の半分がエリザベスのボーカルをフィーチャーしたコクトー系楽曲で、残り半分のインストゥルメンタルはバッド氏の手による曲だと思われます。前作でも参加した Richard Thomas のサックスがここでも登場し、『 Victorialand 』 同様、幻想的なアンビエント音楽として楽しめます。ただ、楽曲のインパクトがやや弱いのと(決して品質が低いワケではないが)、あとマッタリしているので、眠くなっちまうのは仕方ないか。逆に言えばリラックスしたい時、あるいは寝る前の BGM としては最適です。


1986年
コラボ作品
注目曲 : #2 「 Memory Gongs 」
 7分を超えるインスト曲。幻想的・神秘的なメロディー進行が好きです。



1988年
5th アルバム
Blue Bell Knoll

 英国のカルトバンドに過ぎなかったコクトー・ツインズも、1988年には遂にアメリカの配給ではメジャーレーベルの Capitol Records と契約。これを受けてリリースされて本作では、シーケンサー&ドラムマシンが全面的に復活しました。打ち込みがサウンドプロダクトの中核を担っていますが、テクノっ気はゼロで実にナチュらかな響き。隔世の念を微塵も感じさせない洗練されたサウンドです。従来とは違ってメジャーコード主体で、オルタナ派以外の一般層にも浸透しそうな開かれた音楽性は、まさにバンドの新境地。ますます磨きがかかったエリザベスのボーカルは、天使の歌声のようにひたすら美しく、その高音部は蝶のように空高く舞い上がり、雲の上を漂います。#1 「 Blue Bell Knoll 」 からいきなりメロが素晴らしく、#3 「 Carolyn's Fingers 」 はもう鳥肌モノ。どちらもバンドの代表曲たりうる名曲です。アルバムの後半は、ちょっとフワフワなムード・ミュージックで、もう少しヒネリや緊張感が欲しい気もするけど、このクオリティなら十分満足。爽やかな午前のひと時にかけたい CD ですね。
注目曲 : #5 「 The Itchy Glowbo Blow 」
 本作では異色のマイナーコード主体のメロディー。そこまで知名度のある曲ではないですけど、個人的にはお気に入り。 シャラランってな鍵盤のアレンジも極上。

Heaven Or Las Vegas

 全英7位を記録し、セールス的にピークを迎えた6作目は、ファンの間で 『 Treasure 』 と人気を二分する作品。相変わらず極上のメロディーを展開しており、ポップで親しみやすい前半、日陰のメロディーが支配する後半、共に捨て曲無しの傑作アルバムと言えます。ただ、今までと明らかに違う点は、サウンドの美しさが「聖」ではなく、「俗」的なものに感じられること(「ラスベガス」というタイトルも俗的)。あと、歌詞が聞き取りやすくなってる(笑) 何ゆってるのかさっぱりワカランのが逆に謎めいた魅力を放っていただけに、バンドの方向性が確実に変化していたことが窺えます。3作目あたりのゴシック交じりの神がかったオーラが好きだった管理人的には、この中道路線への歩み寄りにはちょっと残念ですが、万人にオススメできる作品ではあります。


1990年
6th アルバム
注目曲 : #6 「 I Wear Your Ring 」
 暗めの前半を経て陽転する後半への流れが素晴らしい。ああ、オレはやっぱり暗い曲が好きなんですねぇ。

 まさに全盛期を迎えていたコクトー・ツインズでしたが、全てが順調に進んでいた訳ではなかったようです。ロビンのアルコール&ドラッグ中毒や、4AD のボス Ivo Watts-Russell との諍いが原因で、デビュー以来長年所属した 4AD を離脱。Mercury Records の傘下にある Fontana に移籍することになり、英国でもメジャーレーベルの所属となりました。(アメリカでは Capitol Records との関係を維持)
 右の動画は、『 Heaven Or Las Vegas 』 からのシングル曲 「 Iceblink Luck 」の PV 。初期の音楽とは異なり、普通に日常的でキレイな曲です。

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Four-Calender Cafe

 フォンタナ移籍後の第1弾。今までの複層的な音響処理とはやや違って、水晶のように透明感のあるシンプルなサウンドに変化。それはまあいいとして、どうも楽曲が地味で控えめな印象です。前作がパステルトーンだとしたら、今作はペールトーン。言い換えれば、前作の中でも目立たない曲ばかりを集めたようなアルバム。メロディーセンスを含め、全てにおいてパンチが無くなり、炭酸の抜けたほの甘いムード・ミュージックになってしまいました。『 Heaven Or Las Vegas 』 がそこまで好きじゃない管理人的には、最後まで集中して聴くのはキッツイです。2nd アルバムの冒頭の爆発音とか、3rd アルバム収録曲 「 Lorelei 」 の鐘の音とか、5th アルバムのチェンバロの幕開けみたいに、今までは「お、お、お」って引き込まれる演出が必ずあったじゃないですか? でも本作は終始ふかふかの41分。緩いよー。エリザベスの歌唱にしても、全盛期の頃のある種の「厳しさ」「凄み」が薄れ、弱々しくなってる気さえする。しかし 『 Heaven Or Las Vegas 』 を最高傑作に推す人にとっては、十分な良作かもしれません。あと、このアルバムだけジャケットがコクトーらしからぬしつこさで嫌だ。


1993年
7th アルバム
注目曲 : #3 「 Bluebeard 」
 前作のシングル曲 「 Iceblink Luck 」 直系の曲調ですが、もっと控えめ。この曲は後に香港のポップ歌手フェイ・ウォンによってカバーされます。



1996年
8th アルバム
Milk & Kisses

 バンドが残した最後のオリジナルアルバム。ジャケットのイメージ通りの、明るく優しい光に包まれた作品です。前作と比べると、幾層にも処理を重ねた以前のサウンドに回帰している感があり、さらに特徴的なのは、普段よりエレキギターの出番が多くなっていること。コクトーにしては珍しく、1曲目のイントロからいきなりシュワシュワ鳴り出すし、#11 「 Treasure Hiding 」 では曲の後半に進むにつれギターサウンドが大いに盛り上がりを見せます。もちろん初期の頃の暗鬱シューゲイザーノイズとは全然違くて、こちらはシャワーのように温かく降り注ぐマイルドギター。音のどこまでギターでどこからシンセなのかオレには分からんです。やはり 4AD 時代からすると、楽曲のインパクト的にはもう一押し欲しいし、ここ数作品のマンネリ感は否めないところですが、休日に寝っころがりながらリラックスするには最適の BGM 。  
注目曲 : #12 「 Seekers Who Are Lovers 」
 このアルバムでは珍しくエリザベスの地声が基調ですが、サビで空へと舞い上がる天使の歌声は久々に神々しい感じでイイ。

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 『 Milk & Kisses 』 リリース後、バンドは9作目のアルバムのレコーディングに取り掛かっていたそうですが、ここに来てエリザベスとロビンの間に離婚問題が浮上。それが原因なのか、バンドは突如解散してしまい、9作目はお蔵入りになってしまいました。コクトー・ツインズ解散後、ロビンとサイモンはそれぞれ主にプロデューサーとして音楽活動を継続。一方エリザベスは、コンピレーション作品や Massive Attack のアルバムでのゲストボーカル参加、その他 『ロード・オブ・ザ・リング』 等の映画音楽に至るまで、様々な活動に(地味に)関与しております。2007年頃にはエリザベスの初のソロ・アルバムの発売が噂されましたが、アレ結局出てないじゃん。一体どうなったのかしら? スージーは出したぞ(笑) まあ今後に期待です。

Lullabies To Violaine, Vol. 1

 解散後もコンピ盤など多数リリースされていますが、2005年には 4AD 設立 25 周年を記念して、コクトー・ツインズの全シングルを収録した4枚組のボックス・セット 『 Lullabies To Violaine: Singles And Extended Plays 』 が発売されました。翌年にはこの中身を 4AD 時代とフォンタナ時代の2つの作品に分けてリリース。このアルバムはその片割れです。コクトー・ツインズはオリジナル・アルバムに未収録のシングル曲が多いので、特に管理人のような後追いのリスナーには助かりますね。
 さて中身ですが、Disk1 には陰鬱なゴシック系楽曲が多く、Disc2 はシンセ主体のドリームポップ系に近くなり、これらが時代順に整列。エリザベスの歌唱法やサウンド面での変化の軌跡を辿ることができます。が、これからコクトー・ツインズを聴こうとする人向け、つまり入門編として適したアルバムと言えるかは難しいところ。シングル集だけあって楽曲はそれなりに粒揃いですが、「 Lorelei 」 や 「 Carolyn's Fingers 」に匹敵するくらい華やかな曲は無い気もします。もし最初に聴くなら 5th 『 Blue Bell Knoll 』 あたりが良いんじゃないかなーと。あるいはオリジナル・アルバム収録曲を含んだコンピ盤もあるので、そちらを選ぶとか。そんな感想を抱きました。


2006年
コンピレーション盤
注目曲 : Disc1 #1 「 Feathers-Oar-Blades 」
 記念すべきデビュー曲。って、ちょ、何ですかこの疾走ポジパンぶりは! バウハウス並にクールじゃん。初期はスピード感のある曲も結構やってたんですね。