オーストラリア出身、英国ロンドンで活動を展開した、ブレンダン・ペリー ( Brendan Perry ) とリサ・ジェラルド ( Lisa Gerrard ) の男女2人によるダークウェイブ系。既に解散済みですが、80年代〜90年代前半にかけて Cocteau Twins と並んで 4AD レーベルの看板アーティストでした。その音楽性はゴシックに民族音楽や宗教音楽を融合したもので、異言を発するリサのボーカルと相まって、独特のスタイルを築き上げています。バンド名の 「デッド・カン・ダンス」 は 「デカダンス(退廃)」 とは別に関係無いらしく、実際は 「死んでしまった物に生命を吹き込む」 という意味を持つらしい。あと、中身の音楽のイメージを的確に伝えるアートなジャケ絵も毎回秀逸。 |
1984年 1st アルバム |
Dead Can Dance 1st アルバムは言わば彼らにとって唯一のロックアルバム。次作以降ではエレキギターは使わなくなってしまいますが、この時点ではまだ Joy Division や Bauhaus といったゴシックロック/ポストパンクとの接点が見出せる、暗く退廃的なポジパン・ギターがサウンドの中核です。とはいえ、ニューギニアの仮面ジャケが暗示するように、このアルバムから既にトライバルなリズム感が散見され、後の方向性が窺えるのではないかと。曲によってボーカルはブレンダン・ペリーだったりリサ・ジェラルドだったりと別々ですが、2人のどこか浮世離れした歌唱は、あたかも人影の全くない別世界の風景を眺めているかのようで、同類のバンドとは一味違う個性。そう、浮世離れしてるんだ、ポップじゃないのよこの人たちは。後続の作品と比べると、楽曲がやや単調な感じもしますが、やはりファンなら是非とも聴きたいアルバムです。 |
注目曲 : #3 「 Frontier 」 1曲目、2曲目と進んで、ここにきて「おや?」と思う。死者を蘇らせる宗教儀式で聞こえてきそうなエキゾチックなリズム感。しかしリサのボーカルは何語を発しているのかサッパリ分からん。 |
Spleen And Ideal 前作から一皮向けた感のある 2nd アルバム。上述のように本作からギターサウンドが一掃され、代わってストリングスやブラス類、所謂ドラム以外の打楽器・民族楽器の音色が中心となり、ロック色が大幅に減退。オリエンタルな民族音楽と Arcana のような暗黒ネオクラシカルとの中間を行くサウンドです。リズムトラックにしても現代西欧的な要素が排除され、#4 や #8 では荷馬車がガッタンゴットン、#9 では微妙にジャジーなリズム感、あとアンビエントな曲調も多くなりました。二人のボーカルも素晴らしく研ぎ澄まされ、ブレンダン・ペリーは憂い彷徨う吟遊詩人、リサ・ジェラルドは呪文を唱える古代の巫女といったイメージ。都会の喧騒から解き放たれ、遠い異国の旅路へと向かう悠久の時間を感じさせながらも、どの曲もピンと張り詰めた緊張感が保たれており、全体としてクオリティがグッと高まった良いアルバムです。 |
1985年 2nd アルバム |
注目曲 : #6 「 Enigma Of The Absolute 」 古代王国の大宮殿のような風格のある曲です。リサと違ってブレンダンのボーカルは毎回ちゃんと英語で歌っているんですね。 |
1987年 3rd アルバム |
Within The Realm Of A Dying Sun 3rd アルバム。前作からその傾向がありましたが、脱ロックどころか脱ポピュラー・ミュージック化が一段と進行し、我々の手の届かない、いたく内省的・宗教的なネオクラシカル・アルバムになってしまいました。以前より民族音楽のエッセンスが希薄になり、リズムの導入も極力控えられ、ストリングスを基調とした深刻なハーモニーが辺り一面に広がっていきます(笑) 今作ではアルバムの前半がブレンダン・ペリー、後半がリサ・ジェラルドのボーカル曲という感じで明確に分割されていますが、特にリサのボーカルは圧巻、この世の果てまで届きそうな神聖ボイスには、レーベルメイトのエリザベス・フレイザーとはまた違った凄みが漲っています。二人とも言語を超越してる点では同じだけど、エリザベスが癒しの女神なら、リサは裁きの女神ってところか?どうか。終末的な鐘の響きが怖い #7 「 Summoning Of The Muse 」 と 悲劇的なラストシーンを思わせる #8 「 Persephone (the gathering of flowers) 」 の2曲は心が苦しくなる程の名曲で、教会に駆け込んで目に涙を浮かべながら懺悔する時の BGM に最適。今日から一年間、音楽はこの2曲だけ聴き続けたら、これまで犯してきた数々の罪は綺麗サッパリ洗い流されること請負です!(根拠なし) |
注目曲 : #6 「 Cantara 」 アクティブなリズム感とリサの中近東風のボーカルがこのアルバムでは異色。これも人気ある曲です。 |
The Serpent's Egg 大自然を鳥瞰するアートワークが美しい 4th アルバム。前作と前々作を融合しつつ、余分な肉を削ぎ落として、更なる高みに昇らせたような集大成的な作風で、地球環境に警鐘を鳴らすがごときシリアスさの中に、ニューエイジ的な安らぎを含ませた壮大なアース・ミュージックを展開しています。アルバム前半はストリングスやオルガンの持続音、チェンバロの音色をフィーチャーした宗教色の濃いネオクラシカル/チャント・ミュージックが中心で、アンビエントに漂う時間帯。一方のアルバム後半はワールドミュージックの要素と共に、土着的なリズム感を打ち出してきて、アマゾン奥深くの原住民の宗教儀式のような様相を呈してきます。音数そのものは今まで以上に絞られていて、肉声の持つ力を最大限に活かそうとしている印象も。ラスト曲の 「 Ullyses 」 はワルツ風の三拍子リズムが斬新で、本作の隠れ名曲です。傑作アルバムだけに、ちょっと敷居が高いよなあ。 |
1988年 4th アルバム 推薦盤 |
注目曲 : #1 「 The Host Of Seraphim 」 彼らの中でも屈指の神曲ですが、初っ端からクライマックスで重いよ(笑) この曲を BGM に使って飢えと貧困に苦しむ第三世界の映像を流したら、3分間くらい人生観変わります。リサのボーカルも神レベル。 |
1990年代に入るとリサはオーストラリアに帰国してソロ活動を開始するようになり、一方ブレンダンはアイルランドで古い教会を購入して、そこで音楽の制作をしながら住むようになりました。まあ結局、このことが後の解散に繋がってくる訳ですが、ブレンダン自身は「距離の問題は創造活動における個人的自由を保つのに役立った」とコメントしているようです。 あと余談ですが、彼らは1992年にアルベールビルで開催された冬季オリンピックのオープニング・セレモニーでパフォーマンスを披露しています。 |
Aion 5th アルバムは・・・これは J.S.Bach 以前の古楽 = " Early Music " でした。凄いですよ、もう見事なまでに古楽ワールド全開。一曲目からカタコンベの中で厳かにお祈りが始まって(イメージね)、二曲目は収穫祭の農民の踊り(これもイメージね)、その後もグレゴリオ・チャントや中世民謡のオンパレードで、どう考えても今から20年前の洋楽ポップスとは思えません。これは600年前の音楽です。聴けばすぐ判りますが、様々な古楽器を駆使して中世の音色を忠実に再現しているので、管理人のような隠れ古楽ファンにとってはたまりません。逆にそうでない人にとっては「コレ聴いてどうしろと?」って思うかもしれませんが、ボーカルにしても曲調にしても肩の力が程よく抜けているので、ある意味一番聴きやすい作品かも。この人たち芸達者ですね。 あと今作のアートワークは、15世紀後半のネーデルランドのSF奇才宗教画家ヒエロニムス・ボスの作品の一部を使用したもの。これいいな。 |
1990年 5th アルバム 推薦盤 |
注目曲 : #6 「 As The Bell Rings The Maypole Spins 」 バグパイプの音色をフィーチャーした曲ですが、なぜかこの曲だけリズムトラックがデジタリィな質感。 |
1993年 6th アルバム 推薦盤 |
Into The Labyrinth リサがアイルランドに赴き、ブレンダン側のスタジオで制作された 6th アルバム。 ゲスト・ミュージシャンに頼ることなく、2人で全ての楽器を演奏した初めての作品だそうで、このアルバムを最高傑作に挙げる人もいます。 作風的には前作で顕著だった中世色・宗教色が一掃され、民族音楽テイストが全編を支配するエスニック・フュージョン/ニュー・エイジとなりました。 どうやらこれはリサ側の趣味らしいですね。 地球を一回りするがごとき地域性に富んだメロディーの数々に、パーカッション類の音色が躍動するエスニックなリズム感。 そんな楽曲群の中で一際異彩を放つのが、彼らにしては珍しく PV まで制作された 4曲目の 「 The Carnival Is Over 」 。 この曲に限ってはエスノ感覚は無しですが、夢見心地なムードにくるくると螺旋状に回転するシンセのアレンジが秀逸で、彼らの新境地とも言える名曲です。 |
注目曲 : #11 「 How Fortunate The Man With Non 」 ブレンダンのボーカルによるラスト曲。迷宮の奥へ誘うようなストリングスの旋律が印象的。 この曲といい、4曲目といい、本作ではブレンダン・ボーカル曲の出来の良さが光っていますね。 |
「 The Carnival Is Over 」 の PV 。 4AD の名に恥じないアート感覚溢れる力作 PV です。 なお、曲の後半で現れる歌詞の一節 "(The) Procession moves on, the shouting is over" は Joy Division の 「 Eternal 」 からの借用で、 曲の雰囲気やメロディーもどことなく JD の 「 Eternal 」 や 「 Decades 」 ( 『 Closer 』 の8曲目と9曲目) に似てます。あんなに暗くないけど。 |
1994年 ライブ盤 |
Toward The Within バンド唯一の公式ライブアルバム。15曲の収録曲のうち4曲を除いて全て他のアルバムで未収録なので、ファンなら聴く価値ある一枚。 映像と一緒に楽しめる VHS 形式もリリースされており、後になって DVD もリリースされたようです。 実際聴いてみると、ライブ盤とか言いながらスタジオ録音と比べても全く遜色無い音質の良さで、本当にライブ盤かよ?って耳を疑ってしました。 確かに曲間にオーディエンスの歓声とか収録されているし、音の臨場感とか微妙に違う気もするけど・・・。 楽曲に関しては比較的エスニック/フォーク寄りで、シリアスな緊迫感は控えめなので、肩の力を入れずにリラックスできる内容となっています。 まあしかし、この二人はやっぱり歌唱力抜群ですね。特にリサ。こんな近くで鬼気迫る勢いで歌いまくられたら、魂があの世に持っていかれそうで怖えーよ。 |
注目曲 : #14 「 Sanvean 」 バンドのツアーにも参加していた Andrew Claxton なるミュージシャンとリサ・ジェラルドによるコラボ楽曲。 弦楽器の感動系コード進行が一瞬 「パッヘルベルのカノン」 を彷彿とさせます。この曲は後になってリサのソロアルバムにも収録されました。 |
Spiritchaser スタジオ最終作。ここでも宗教色は見られず、前作と同路線のエスニック・フュージョンが展開されています。 曲名からして 「 Indus 」 やら 「 Nile 」 やら地理用語満載だし。2nd や 4th の頃とは違って、今作の地域性は湿度が高めな亜熱帯密林サウンド、ってなイメージです。時代に伴うテクノロジーの進歩ゆえか、以前の作品群と比べて音質がクリアーに研ぎ澄まされていて、 エニグマなどのワールドビート勢にも近くなってきました。 が、楽曲それ自体のインパクトにはやや欠ける気もするんですよね。前作の 「 The Carnival Is Over 」 のような目玉が無く、 ゆる〜い感じで気持ちよく進みながら、音が右耳から左耳へと通り過ぎてしまいそう。 まあ、BGM としては申し分ないです。 |
1996年 7th アルバム |
注目曲 : #4 「 Song Of The Dispossessed 」 ブレンダンのメランコリックなボーカル曲。こういうラテン系の曲は今まで無かったかも。 |