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Nine Inch Nails


 米国オハイオ州出身のトレント・レズナー ( Trent Reznor ) 率いるインダストリアル・ロック・バンド。バンドというよりは、実質的にはトレント・レズナーによるワンマン・プロジェクトであり、1988年の結成から現在に至るまで彼を慕う様々な人物が流動的に関わってきました。騒々しく破壊的なサウンドから静謐で美しいメロディーまで自在に使い分けることもあり、その音楽性を一言で表現するのは困難ですが、2nd アルバム 『 The Downward Spiral 』 の商業的成功以来、彼らはインダストリアルというジャンルを世に広く普及させた存在として多大な評価と知名度を得ました。また彼は自らのレーベル Nothing を設立して怪人マリリン・マンソンを輩出するなど、プロデュース業にも精力的です。寡作だった90年代と比べると、近年ではネットを通じて立て続けに新作を発表するという充実ぶりで、インダストリアル界の王子様も今となっては荒野を歩くマッチョおやじ、トレントはこの先どこへ向かおうとしているのでしょうか。

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1989年
1st アルバム
Pretty Hate Machine

 ライブ活動を通じてジワジワと知名度を上げ、ロングヒットの結果、今やアメリカ国内だけでもトリプル・プラチナのセールスを記録している 1st アルバム。日本と違ってアメリカでは大人気の作品で、これを最高傑作に挙げるファンも多いようです。サウンド的にはインダストリアル・ロックというよりは、クラブ受けが良さそうなハード・エレポップといった仕上がり。リズムトラックやシンセノイズの使い方には Skinny Puppy ら先代インダストリアル勢の影が見え隠れしますが、NIN 特有のダークで曖昧なメロディーセンスは既にここで確立されています。音密度のスカスカ加減や 80年代的な青臭いアレンジが、最近では逆にお気に入りだったりするんですねオレは。特に #1 「 Head Like A Hole 」 はライブのトリを飾る名曲としてお馴染み。同年に名盤 『 The Mind Is A Terrible Thing To Taste 』 を発表した Ministry のアル・ジュールゲンセンは、本作を「ただのポップ・バンド」てな勢いでコケにしたそうですが、いやいや人のこと言えないでしょーよ、Ministry の 1st アルバムより全然カッコいいし(笑)、それなりにインダストリアルしてますよ。
注目曲 : #5 「 Something I Can Never Have 」
 外界から隔絶された空間でピアノが鳴り響く NIN 流インダストリアル・バラード。トレントが音楽サイドを担った映画 『ナチュラル・ボーン・キラーズ』の挿入曲です。

Broken

 EP なのにチャートで7位を記録した重要作で、実質的に NIN の 2nd アルバムと捉えても良いかと。当時トレントは TVT レーベルとの法廷闘争に明け暮れていたそうで、そのフラストレーションがレコーディングの原動力となったと思しき攻撃的楽曲の数々。スピード感も NIN の作品群で一番。強力なギターサウンドの導入によって、前作とは比べ物にならないくらいノイジー&ハードなので、たった6曲なのにかなりの疲労感、お腹いっぱい・・・と思わせといて、実は98曲目と99曲目シークレット・トラックが用意されていました。これは当時としては斬新な試みで、後のラウド系アーティストがこぞって真似するようになります。因みに、本作のリミックス EP 『 Fixed 』 も同年にリリースされ、以後1オリジナルにつき1リミックスは定番に。


1992年
EP
注目曲 : #2 「 Wish 」
 グラミー賞に輝いたシングル曲で、NIN を代表する疾走攻撃チューン。サビで押し寄せるギターノイズが超イイ。



1994年
2nd アルバム
推薦盤
The Downward Spiral

 銃声で幕を開ける 2nd アルバムは全米2位を記録。商業的な成功と共に、インダス云々を超えてモダンロック界の超名盤として認識される NIN の代表作です。作風は  『 Broken 』 路線の発展系で、「 Mr. Self Destruct 」 で顕著な荒れ狂う電動ドリルのごときシンセノイズ、「 March Of The Pigs 」 で飛び出すの強力なギターサウンドにコダワリの疾走リズムトラック、そして末尾のバラード曲 「 Hurt 」 の感動的なメロディーといった具合に、音楽要素のベクトルが各方面に伸張しています。インダストリアル音楽に馴染みの無い人にとっては、1回・2回聴いたくらいじゃ不愉快な工場見学と変わりないでしょうけど、ハマったなら何百回聴くに耐える鉄壁の完成度に底なしの魅力満載。んでもって本作のリミックス盤 『 Further Down The Spiral 』 は翌年リリースされています。
注目曲 : #6 「 Ruiner 」
 サビで押し寄せるシンセノイズの壁が鬼カッコイイ。間奏部の切れ切れギターソロ(?)の旋律には70年代ハードロック・プログレ的な要素も汲み取れるのではないかと。

 シングル曲 「 Closer 」 の PV。初期の NIN にはグロテスクな悪趣味 PV が多く、MTV とかでしばしば放映禁止を食らっていますが、これもその一つ。管理人のお家のインテリアもこっちの方向性目指してます(笑) 曲の方も NIN の最高傑作の一つでしょう。ビートがカッコイイ。

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1999年
3rd アルバム
推薦盤
The Fragile

 前作の大成功がもたらしたプレッシャーの中、トレント・レズナーが苦しみながら産み落とした2枚組みの大作は全米1位を獲得。アメリカ人もこういうの聴くんだー、とやや意外。「動」的なアグレッションが際立っていた前作と比べると、今作では「静」の部分が深化。Disc の Left の方はトレントの傷ついた心のように病みに病んだ世界観で、Right の方は Left ほどの統一感は無くより実験的。「 Just Like You Imagined 」 を筆頭にインスト曲もボーカル曲に全く引け劣らない完成度・存在感を放っており、インダストリアルの一語では到底語りつくせない高度な芸術性は他に類をみません。が、正直言うと最初から最後まで聴き通すのはシンドイし気が滅入いる。かといって、1曲だけつまみ食いしてもこの作品の素晴らしさは十分に伝わらないから、さあ困った。でも年に何回か無性にこれを聴きたくなることがあって、そんな時に2枚続けて頑張り抜くと他にはない満足感(達成感?)を味わえます。部屋に引きこもって悩み事するのに最適なBGM。なお、例によって本作のリミックス盤 『 Things Falling Apart 』 は2000年に発表されています。
注目曲 : Disc2 #5 「 StarFuckers Inc. 」
 これだけ曲数が多いとどれを紹介すべきか迷うんですが、この曲は唯一のスピード・チューンということで、希少価値を認めてピックアップしてみました。歌詞の内容は、リンプのフレッド(Vo)などロック・スターたちを暗示して挑発しているみたい。これPVで一目瞭然、マンソンさんとかスマパンのビリー(Vo)とか、あと御自分までもヒデェことになってら(笑)

And All That Could Have Been

 NIN 初の公式ライブ盤。『 Pretty Hate Machine 』 から 『 The Fragile 』 までバランス良く選曲されていて、ここまでの NIN のベスト盤として捉えても差し支えないかと思います。ってか、ライブ音源のくせしてライブっぽい臨場感というか壊れ具合が殆ど感じられなくて、スタジオレコーディングと勘違いしてしまいそうな音質の良さじゃないですか。1st アルバムではスカスカだった 「 Terrible Lie 」 「 Sin 」 「 Head Like A Hole 」 あたりがこのライブ盤では格段に重厚でカッコ良くなっているのは嬉しい限り。でもそれ以外の曲は特段の感慨は湧きません。あとこのアルバム、限定盤には Disc2 通称 「 Still 」 が付いてくるんですが、実はこっちの方が NIN ファンの間で賞賛の的。ピアノ伴奏主体でアコースティックな感覚で統一されたバラード・アルバムとなっております。静かな NIN も好きですが、オレ的には結局 「 Head Like A Hole 」 が一番良かった(笑)


2002年
ライブ盤
推薦盤
注目曲 : Disc2 #9 「 Leaving Hope (Live) 」
 Still のラスト曲。儚く感動的なインストゥルメンタルです。

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2005年
4th アルバム
大推薦盤
With Teeth

 久々のオリジナルアルバム。ここには 『 TDS 』の頃のような狂気のデジノイズも、『 TF 』 を思わせる病的なな世界観も存在しません。ピアノを伴って、健康的にすら思えるバンド・サウンドを鳴らしています。それはあたかもドラッグ中毒を克服したトレント・レズナーの姿が投影されているかのよう。なんか今までの作品からは、本や機械が山積みになった暗い部屋の中で時にうずくまり時に暴れている彼の姿を想像できたのに、このアルバムでは部屋をすっきり整理整頓しているイメージ。ゆえに 『 TDS 』 の衝撃をリアルタイムで体験した古参のファンにとっては物足りない内容かも。それでも窓から太陽の光が差し込んでいるイメージには程遠く、NIN の持ち味は守られているし、一曲一曲の完成度も高い(特に後半)。最初に手に取った作品という理由もあるでしょうけど、管理人は NIN の作品群では未だにこのアルバムが一番お気に入り。非インダス系ファンで 2nd、3rd は苦手でもコレならいける、という人もいるのではないかと。それくらい開かれ聴きやすくなりました。セールス的には全米1位を獲得、本作からカットされた3曲のシングルも全てビルボードのモダンロックチャートで1位に登りつめています。
注目曲 : #13 「 Right Where It Belongs 」
 超憂鬱な内省音楽。元気出そうトレント。曲の後半にて湧き起こる別世界からの拍手喝采が空虚空虚。トリを飾るに堪える超名曲です。というかこのアルバムはラスト3曲の流れが神レベルだろ。

 反ブッシュ・ノリノリ・ダンス・ロックな 1st シングル 「 The Hand That Feeds 」 も好きですけど、この 2nd シングル 「 Only 」 もイチ押し。一風変わったディスコ・ナンバーで、終盤での空中分解しそうな危ういバランスが魅力。おまけに PV もクール。この PV の1シーンをカットした壁紙もオフィで配布されていました。



2007年
5th アルバム
Year Zero

 2年ぶりという、NIN にしては異例の速さで届いた本作は、この世の終末をテーマにしたコンセプト・アルバム。何ヤラ CD の盤面に謎解きが隠されているようで、楽しんでるな〜トレントさん、てな感じですが、作風は以前と比べると取っ付きにくくなりました。今回は 「 Wish 」 系の高速アグレッシヴ・チューンは皆無だし、かたやポップな歌メロも控えめ。『 TF 』 に近いのか?と思うも、アレほど病的でもありません。ベテランらしく感情がむやみに爆発することが無くなり、何つうか思慮深〜くなったイメージ。複雑なリズムトラックを基に、緻密なサンプリングとノイズで築き上げられた、「NIN 流コンピュータ・ノイズ・ミュージック」てな様相を呈しております。こうやってバンド色が薄くなると、ライヴでの盛り上がりが心配になりますねぇ。まあ、ぶっちゃけ今でも 「 Head Like A Hole! イエァ!!」ってやってた方が客も喜ぶんだと思いますけど、似たようなものを何枚も作ることなく、毎回新しい方向性を打ち出すアーティストは貴重なんだと思います。さすがに過去の名作には及ばないだろうし、個人的にリピート欲もそこまで湧かないこのアルバムですが、かといって通して聴いてみると満足度はそこそこ高かったり。
注目曲 : #4 「 The Good Soldier 」
 本作中、ずば抜けて気に入った曲は無いんですけど、この曲は終盤のマッタリしたメロディーが好きだな〜。

Ghosts I-IV

 制作意欲旺盛なトレント、今度は 4部構成で全36曲のインストゥルメンタル・アルバムを作ってきました。これ、当初は全36曲中9曲は無料ダウンロードできて、残りは有料ダウンロードしてくださいな、ってな形式でリリースされましたが、管理人は後になって一般流通発売された2枚組 CD を店頭にて購入しました。さて音ですが、Aphex Twin ばりのテクノ・アンビエント・ノイズ音楽となっており、脱ロック脱ポップな傾向が顕著。浮世離れした世界観は前作に通ずるもので、時々ビートがガシガシ、ノイズもデジデジ、民族音楽のエッセンスも少々ありますが、前作よりはビート感覚は控えられ、ピアノ音を中心に据えた基本静かなアルバムです。まあしかし、トレントのボーカルが封印されると音楽としての華に欠ける気がして、今さら彼のボーカリストとしての存在意義をヒシヒシと実感したり、しなかったり。アルバム展開とかコンセプトとか難しいこと考えず、トレントのアイデア集 BGM として楽しめば良いと思います。


2008年
6th アルバム
注目曲 : Disc1 #2 「 2 Ghosts I 」
 2曲目。ノイズとピアノだけの研ぎ澄まされたサウンド、別世界の情景がイイ。でも正直、そろそろ初期のような下世話なディスコ・ロックが聞きてぇ(笑)



2008年
7th アルバム
The Slip

 あれ?!また出たの?感の強い NIN の新作。今回はトレンドの「おごり」らしく、公式サイトから全曲フリーダウンロードできました。 ここ最近 NIN の新作ラッシュで聞き込みが追いつかなかったのと、 あとタダだからまあ別に・・・って暫く放置してましたが(スミマセン)、なかなかイイですね。 今作もやはり狂気の引きこもりサウンドだった 『 The Downward Spiral 』 〜 『 The Fragile 』 の頃とは違って、 『 With Teeth 』 以降の開かれた雰囲気を引き継いだ作風で、 明快に無駄な肩の力を入れることなく、かといって「らしい」ギターノイズやリズムトラック、 一筋縄にはいかないループ展開など、随所に NIN ならではの創意工夫を存分に感じさせ、 尚且つ全10曲43分でコンパクトにまとめられた聴きやすさも含めて満足度の高い一枚となっています。 静かなピアノバラードの #7 「 Lights in the Sky 」 、幻想ノイズアンビエントな #8 「 Corona Radiata 」 、 前々作 『 Year Zero 』 を彷彿とさせるトリップホップ系の #9 「 The Four of Us are Dying 」 といった風に、 アルバム後半に進むにつれ深まっていく世界観も健在。 まあさすがに全盛期の頃のような衝撃は無いし、そろそろ初期のような下世話なディスコロックも聞きてぇけど(無理だってば)、 トレントさんはこれからも独自の音楽世界を追求していって下さい。
注目曲 : #3 「 Letting You 」
 激しく跳ねる独特のリズムとトレントのシャウトが本作中最高のアグレッションを放つ NIN 流デジタル・ハードコア。特にサビで爆発するハイハットが凄すぎる。