セックス・ピストルズを脱退してパンク現象を強制終了させたジョニー・ロットン、名前を改めジョン・ライドン ( John Lydon ) が新たに結成したバンド。制作過程の対立などにより、当初のメンバーは次々とジョンの下を去っていき、中期以降は事実上彼のソロ・プロジェクトとなってしまいました(笑) 裸の王様。92年の 8th アルバムの後、バンドは事実上解散。既存のロック音楽の解体を試み、新しい手法でサウンドの再構築を試みた彼は、まさにポストパンクという時代を象徴する存在でした。それでは、Youtube の動画とあわせて天賦の才能の持ち主 ( が徐々に凡人化する )、ジョン・ライドンの音楽の変遷を辿ってみましょう! |
1978年 1st アルバム |
First Issue ( Public Image ) ピストルズ時代の曲を演奏するよう野次を飛ばすオーディエンス、クールにこれを拒否するジョン。未だパンクの熱が冷めやらぬだけに、そんなやりとりが珍しくなかった当時の PIL のライブ光景。明快なパンクロックに慣れ親しんでいたファンにとっては無理もなく、今となっては名作扱いされるものの、リリース当時の反応は不評だったそうです。確かにこのアルバムを聴いて感じるのは、彼が明らかにパンクとは違う方向に進もうとしていること。1曲目からして非直線的なカオティックサウンドで、2曲目は彼の語りでジ・エンド。その後はノイジーに響くギター、荒々しいドラム、羞恥心とか気にしない感じで叫び散らすジョンのボーカル、適度な疾走感。これって・・・あらら? やっぱりパンクですわね(笑) 表現欲求だけはビンビン伝わってきますが、中身がちょっと消化不良な感じで、ピストルズ時代から抜け出しきれていない一面もあり。とはいえ、一部で脱西欧的リズム感覚も芽生えており、彼らの歪な進化の過程を垣間見える貴重な記録として、やっぱり価値ある作品なんだと思います。 |
注目曲 : #5 「 Public Image 」 彼らのテーマソング? これは超名曲! |
シングル曲 「 Public Image 」。イントロのベースが鳴り出しただけでもうワクワクします。いや〜良い。 この頃の PIL のラインナップは、ジョン・ライドン、初期 The Clash のメンバーだったギタリストのキース・レヴィン ( Keith Levene ) 、ベーシストのジャー・ウォブル ( Jah Wobble ) 、ドラムのジム・ウォーカー ( Jim Walker ) の4人組でした。 |
1979年 2nd アルバム 推薦盤 |
Metal Box ( Second Edition ) 最高傑作の呼び声も高い 2作目。パンクロックからの脱却を試みた前作から、さらに音の発酵具合が進みました。AメロとかBメロとかサビとか、そんなルールとはおさらば。まるで楽器を弾けない人が適当にいじっているかのような気まぐれギターノイズに、ウワゴトのようなジョンのボーカル、執拗に反復されるリズム、そしてジャー・ウーブルによるダブ的な強圧ベースライン。#3 「 Swan Lake 」 のギターリフは明らかにチャイコフスキーの「白鳥の湖」のパロディだし、#8 「 Socialist 」 のミニマルなリズムの反復は Neu! にも通ずるイメージ。そんなワケの分からん取り合わせのジャンル・カテゴライズ不能な実験音楽ってなところでしょうか。空き家のごときガランとした雰囲気、踊れそうで踊れない脱力感と緊張感の奇妙な共存。聴き手に理解されるのを望んでいないような、我が道を行く姿勢がいいですねぇ。その分、最初は取っ付きにくいかもしれませんが、ハマると催眠術のように抜け出せなくなる中毒性があります。 |
注目曲 : #4 「 Poptones 」 ギザギザのベースラインとギターリフの組み合わせが延々と続くのですが、マジカルな魅力あり。 |
このアルバム、オリジナルでは 12インチ 3枚組がアルミ製缶詰めパッケージで発売され、それゆえタイトルも「メタルボックス」 。ロック音楽のあり方に対する挑戦は、こんな部分でも体現されていたのでした。最近になってこのアルミ缶パッケージは CD 形式で再発されたようで、たまーに中古屋とかで見かけます。なお、『 Second Edition 』というタイトルと上のジャケットは、1980年に2枚組で発売されたリイシュー盤のもの。 右は 「 Poptones 」 のライブ映像。 |
1981年 3rd アルバム 大推薦盤 |
Flowers Of Romance 契約消化のためのライブ盤を挟んでの 3作目。ベーシストのジャー・ウーブルが脱退してしまい、そのままベースレスでレコーディングされた本作。PIL 結成以来ロックの解体をとことん突き詰めた結果、今回は怪しげな民族音楽アルバムが出来上がりました。東西アジアの香りがプンプン漂うインチキ民族音楽。・・・インチキ?否、ピストルズの 『 Never Mind 〜 』は偉大なゴミだが、これは偉大な芸術だと思います。同時期の Killing Joke も通ずる、エスノの香りたちこめる個性的リズムトラックの数々。そして圧巻なのは、この不穏な空気! 太古の人類の音楽というよりは、この世の果ての BGM という感じさえするし、極端に言えば人間の気配すら伝わってこないのです。この不吉なオーラは、ベースレスである分ドラムがよく響くことや、シンセの不協和音、あと出番こそ少ないけど先の読めないギター音の存在も大きいのでしょう。ジョン・ライドンの呪術的なボーカルも見事にハマってます。どの曲も展開がループ状で無論サビることもないのに、全く飽きが来ないし、聴けば聴くほどどんどんハマっていく・・・そんな無限の奥行きを内に秘めた大傑作です。 |
注目曲 : #1 「 Four Enclosed Walls 」 ノイズに続きスネアの一撃。そしてすぐさま「アラ〜、アラ〜!」と悲痛な声で歌い始め。最初はちょっとワラッタ。リズムトラックがユニークです。 |
「 Flowers Of Romance 」 の貴重なライブ映像。この曲はシングル曲だけあって、他よりポップな感じ。 なお、2nd レコーディングの際に固定メンバーのいなかったドラムの席には、後に Killing Joke や Ministry にも関わるマーティン・アトキンス ( Martin Atkins ) が定着しています。 |
1984年 4th アルバム |
This Is What You Want... This Is What You Get バンドのラインナップが様変わりし、この時点で PIL 結成時のメンバーはジョン・ライドン本人を除いて誰もいなくなってしまいました。別世界の情景を描いているかのような 2nd 〜 3rd と比べると、このアルバムは随分とポップで人懐っこくなったな〜という印象。最初の 3曲はホーン類がご機嫌に鳴りまくる PIL 流ディスコ・チューン。やたらファンキーじゃねーか。今回のジョンのボーカルは酔っ払い同然、ニャーニャー、ファーファーゆっとります。アルバムの 4曲目以降は多少落ち着きを取り戻しつつも実験的な志向も強め。ダブ的なベースラインや前作のような民族音楽テイストが散発的に復活し、パーカッシヴなリズム感も顕著だったり。全体的にはまとまりに欠ける気もしますが、曲一つ一つは魅力的だし、十分聴く価値あるアルバムですよ。リリース当時は、傑作 2nd 〜 3rd の反動ゆえか酷評されたそうですが。 |
注目曲 : #8 「 The Order Of Death 」 シンセサイザーのハーモニーが重厚に響くラスト曲。地味に名曲じゃないかな〜と。 |
ホーンの 3コード・メロディーの反復が楽しいシングル曲 「 This Is Not A Love Song 」 。これはハマリマス。ちなみにシングル・ヴァージョン ( 右の PV ) は、ホーンではなくギターによる反復フレーズとなっていますが、ちょっと地味だしジョンのボーカルもテンション低め。アルバム・ヴァージョンの方が断然カッコイイです。 |
1986年 5th アルバム |
Album ( Compact Disc ) PIL の 5作目のアルバム、その名も 『 Album 』 。フォーマットによって別タイトルが付いていて、CD なら 『 Compact Disc 』 、カセットなら 『 Cassette 』 です。オメェ、人をおちょくってるでござるか?!(笑) 前作を最後にドラムのマーティン・アトキンスが脱退してしまい、バンドは完全ジョンの独壇場と化してしまいましたが、それを紛らわすかのように、スティーヴ・ヴァイ(ギター、元 Frank Zappa 、White Snake 等)、ジンジャー・ベイカー(ドラム、元 Cream 等)、そしてキーボード奏者に我らが坂本龍一を迎え、豪華ゲストが多数お見え。プロデューサーにはボーダレスに活動するビル・ラズウェルを起用してます。「ロックは死んだ!」と宣言して PIL を結成したはずのジョン・ライドンですが、本作ではパワフルなロックサウンドが大復活(笑) しかもパンクロックではなくこれはハードロックですな。(たぶんギタリストのスティーヴ・ヴァイの影響だと思います。) ただ、2nd 〜 3rd の頃のオリジナリティ、あの張り詰めた空気はすっかり失われており、この音楽性の一般化にはちょっと残念。ジョンのヤケクソボーカルもいつもより単調な気がするし、曲一つ一つもあんま印象に残らねぇ。まあそれでも、微妙にエスニックな香り漂うのは相変わらずだし、ハイテンションの中に潜むダウナーなムードも持ち味。個性派ハードロックと考えれば、それなりに楽しめるかと思います。なお、シングル曲 「 Rise 」 のヒットも手伝って、チャート的にはまずまずの成功を収めました。 |
注目曲 : #1 「 FFF 」 のっけから疾走感のある爽快ハードロックです。当時のファンは驚いただろうな。 |
シングル曲 「 Rise 」 の PV 。メロディアスで普遍的魅力に溢れたサビだな〜と思ったら、ジョン・ライドン節が炸裂する Aメロとのギャップにニヤリ。ぶっちゃけ、この1曲のために手を出したアルバムでした。 ジョン・ライドンもセックス・ピストルズでのデビューから 10周年。ちょっと年食ったかな。 |
1987年 6th アルバム |
Happy? 今回ジョン・ライドンが連れてきた人物は、ジョン・マクガフ(ギター、元 Magazine 、Siouxsie & The Banshees )、ルー・エドモンズ(ギター&キーボード、元 The Damned )、ブルース・スミス(ドラム、元 The Pop Group )など、前作と打って変わって UK ポストパンク界の住人で固めてきました。作風は前作の延長上で、あれほどハードロック的ではないにせよ、ギター音を前面に押し出していて、所々メロディアスでソウルフルな女声コーラスをフィーチャーしたりと、ポップ感覚・ディスコ受けを意識している様子。でも・・・内容は正直薄いなぁ。冒頭の 「 Seattle 」 こそまずまずの出来ですが、それ以降はあまり耳に残らず、終始同じようなミッドテンポで起伏なく進みながら、いつの間にか終了しているという体たらく。サウンド面からはジョンのアイデアの枯渇は明らかで、おかげで変わないボーカルのテンションの高さが虚しく感じてしまうほど。前作と本作の2枚で PIL は時代に追い抜かれたとオレ的に思います。普通にポップソングをやるジョン・ライドンもある意味貴重ですけどね。 |
注目曲 : #3 「 The Body 」 このアルバムからの 2nd シングル曲。ジョンと女性コーラスの掛け合いが楽しげ。 |
シングル曲 「 Seattle 」 の PV 。メロディアスで溌剌とした佳曲ですが、以前と違って緩〜いノリ。 |