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Slayer


 もはや説明不要のスラッシュメタルの帝王。1981年に米国ロサンゼルスにて結成され、一時期ドラマーの交代を挟みながらも、現在はボーカル&ベース担当のトム・アラヤ ( Tom Araya )、ギタリストのジェフ・ハンネマン ( Jeff Hanneman ) とケリー・キング ( Kerry King )、そしてドラムのデイヴ・ロンバード ( Dave Lombardo ) の4人のオリジナルメンバーで活動中。曲のテーマやアートワークには死や反キリストといったモチーフが多用され、アルバムを発売するたびに物議を醸すのであります。

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1983年
1st アルバム
Show No Mercy

 NWOBHM の流麗さにハードコア・パンクの先鋭さを吹き込んでスラッシュ・メタルは生まれた・・・そういう歴史、当時の気運を確実に読み取れるスレイヤーのデビュー作。サウンド・プロダクションの問題もあるでしょうが、ギターもドラムもどこか湿った質感で、触ると血が出そうなあの切れ味はまだ控えめだし、襲い掛かる虎のごとき迫力サウンドも本作では聴けません。そりゃあ 3rd 以降と比べると物足りないですよ。しかし若さゆえのフレッシュな勢いは流石で、ボーカルの金切りシャウトや、メイデン的なツインギターの絡み、サクサク進んでいく軽快さは今のスレイヤーには無い価値。なんだか、あっという間に終了するアルバム。なお、インナーの写真を見れば分かるように、彼らのメイクはブラックメタル勢への影響が大です。
注目曲 : #1 「 Evil Has No Boundaries 」
 おお、3rd アルバムみたいに高音シャウトでスタートだ。このスピード感はハードコアっぽい。

Hell Awaits

 2nd アルバム。初期の作品だけにまだ発展途上かと思ったら、なんだ、スラッシュメタルとしては十分極まってるじゃん。吐き捨てボーカル、カミソリのようなリフ、電光ソロ。そのどれをとってもバンドのスタイルが定着してます。しかも全曲疾走パート込みで、スピードだけなら次作とさして変わり無し。でも音の芯はまだまだ細めで、威厳や凄みの点ではもう一歩。強烈な印象を与える曲もなく、ダークな世界観も色濃く描けていません。一曲の演奏時間も3〜6分台と、凝った展開をみせるのも次作との大きな違い。ただし、プログレ的な大作傾向はそこまで強くなく、休み休みひたすらスラッシュし続ける内容です。その点、メタリカとも微妙に違う。


1985年
2nd アルバム
注目曲 : #2 「 Kill Again 」
 終始疾走系ですが、途中何回か一時停止で仕切りなおし。前半のリフのメロディーが特に好き。



1986年
3rd アルバム
大推薦盤
Reign In Blood

 スラッシュメタルとロックの歴史にその名を深く刻む、ご存知彼らの3rdアルバム。一応スレイヤーの代表作ですな。どの曲もどの曲も鋭利な高速2ビートが襲い掛かってきて、まさに百列ギロチン攻め。めちゃくちゃスカッとします。ギターもドラムもバカみたいにかっ飛ばしてますが、時々スピードに慣れてきたら、一旦スローダウンして、また加速。そして2、3分くらいでさっさと演奏終了。そんなだから常に速度への有り難味が損なわれません。前作と比べて曲のインパクトが強くなったのに加え、ギターの音圧も格段にアップして殺傷能力も向上。この辺りはプロデューサー、リック・ルービンの手腕によるところも大きいのだと思います。がらがら声でまくし立てるボーカルが歌メロを奏でないのは、それがスピードや過激さには必要ないからであり、これぞ「削ぎ落としの美学」。この姿勢はパンクやハードコアにも通じるところがあって、実際スレイヤーは、コテコテのヘヴィメタルを嫌うパンク党からのリスペクトも熱いようです。発表から20年経過し、エクストリーミズムを追求した音楽が色々なベクトルで進化した今でも、本作の新鮮なキレ味は失われてないし、これからもサビ付くことはないでしょう。
注目曲 : #5 「 Jesus Saves 」
 このアルバムの中では疾走するまでの溜めが長い曲。リズムトラックが凝ってる前奏を経て快速パートに突入。突入する直前の「タン・タン・タン」っていうリズムが個人的にツボです。ギターソロ速すぎだし、ボーカルよく舌回るなぁ(笑)

South Of Heaven

 頂点を極めた瞬間から訪れる転換期。この 4th アルバムはその第一歩。高速パートは相変わらずの猛威ですが、ミッド〜スローテンポの時間帯が明らかに増えました。それが曲単位にもアルバム単位にも大きな起伏をもたらし、前作には無い安定感、と同時に、「タフさ」みたいなものが根付いている気がします。展開も考え抜かれていて、多彩なリズムチェンジが緊張感を切らさないし、そろそろ高速パートが欲しいな〜と思うと、絶妙のタイミングで疾走2ビートが始まったりもする。聴き手の心理までお見通しでいらっしゃる。ボーカルに関しては少し大人しくなっていて、所々歌メロのパートが出現。意識して耳を傾けると、結構音程を奏でてるじゃぁないか君ィ。とはいえ、その歌メロはサウンドの迫力を損ねることなく、彼らの世界観に違和感なく溶け込んでいるので全然OK。新境地開拓の充実作。


1988年
4th アルバム
推薦盤
注目曲 : #2 「 Silent Scream 」
 スローな1曲目から一転、岩なだれのような激速バスドラ連打。展開がコンパクトにまとまった名曲です。スレイヤーで一番好きかも。



1990年
5th アルバム
推薦盤
Seasons In The Abyss

 5th アルバム。ひとまず、作風は緩急を活かす前作路線の延長です。が、前作の曲はじっくり滑り出しても結局は途中で高速2ビートに舞い戻って「お帰りなさ〜い!」って展開だったのに対し、今作ではミッドテンポのまま終了する曲が少なくない。言い換えれば、前作は快速パートで気持ちよく疾走するための下準備としてのミッドテンポ、という感がまだ強かったものの、このアルバムではミッドテンポ自体も主役として捉え、疾走パートには出せない強靭さアピールしている気がします。あくまでオレ的にですよ? だから全体として少しヘヴィになった。歌メロの味付けも前より濃い目。ボーカルの生の声以外にも、サンプリングボイスとかバックコーラス(僅かだが)もあったりして、表現の幅を広げようとする彼らの心意気をヒシヒシと実感。冒頭の疾走曲 #1 「 War Ensemble 」ヴァイオレントな空気渦巻く一枚で、このアルバムも良いなあ。スレイヤーの裏代表作。
注目曲 : #10 「 Seasons In The Abyss 」
 前作同様、視覚にも訴えるヘヴィなラスト曲。今度は鍵盤ではなく、ギターのクリアーサウンドを導入。悪の歌メロも素晴らしく、超お気に入り。

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Divine Intervention

 ライブ盤を挟んでの 6th アルバム。さて本作からドラマーがデイヴ・ロンバードから元 Forbidden のポール・ボスタフ ( Paul Bostaph ) にチェンジ。そのためか、ドラミングの感触が以前と少し違います。何つーか、小ぢんまりコンパクトになったというか・・・。しっかし、とにかく速い速い。このアルバムからグラインドコア並みの2バス連打を炸裂させる時間帯が増えました。とはいえミドルテンポの時間帯も健在。ボーカルは歌メロを奏でなくなったので、作風は 3rd の頃に少し戻った感じもします。ギター音におけるメタル度のダウンは次作の予兆でしょうか。まあ、相変わらず問答無用にカッコイイです、が、何か物足りないオレ的に。ぶっちゃけ、4th、5th の頃の方が新しいことにチャレンジしてたんじゃないかと。ちとマンネリ気味なのは否定できない事実。本人達もそれを自覚したのか、次作でスレイヤーは大胆な方向転換を図ります。


1994年
6th アルバム
注目曲 : #1 「 Killing Fields 」
 壮絶なドラミングが先陣を切るリードトラック。ドラム音が先陣を切るアルバムは本作のみ、という豆知識。前半は速くないけど、後半にかけてスピードアップします。



1998年
7th アルバム
Diabolus In Musica

 スレイヤー最大の問題作、7th アルバム。リアルタイムで聴いたメタラーは驚いただろうな。何じゃいこの横ノリ・グルーヴは?! おいおいスレイヤーどこへ行っちまうんだ?! という困惑の声が聞こえてきそうです。本作ではギターのダウン・チューニングが著しく、音楽性が一気にモダン・ヘヴィネスの域に接近しました(もちろん以前からその傾向はあったけど)。目まぐるしいリズムチェンジの嵐に、ズッシリしたリフの応酬。辛うじて2ビートのパートやギターソロの存在は守っていますが、これは CD ショップのメタルコーナーに陳列すべきではないかもしれません。基本ミッドテンポで、局所的にグラインドコア化するという極端な緩急の差。3曲目や6曲目ではトム・アラヤのボーカルも Rage Against The Machine ばりのラップ調に様変わり。という訳で、正統派メタルファンにはいただけないアルバムかもしれませんが、こっちの畑に近い管理人的には問題なく楽しめます。むしろ新鮮で良い。
注目曲 : #2 「 Death's Head 」
 グルーヴ感がオレの好きな System Of A Down の「 Sugar 」のサビによく似てるんですよ。だからハマります。

God Hates Us All

 キリスト教との対決姿勢をこれまで以上に鮮明に打ち出した 8th アルバム。全15曲(国内盤)という収録曲数はスレイヤーの割には多めだし、1曲目は SE で実質2曲目がリードトラックというのも今までとは違う佇まい。でもそれはいい、大事なのは音なのだ。やはりこのアルバムも前作のモダン・ヘヴィネス化を踏襲した内容に仕上がっています。前作で見られたミクスチャー感覚は影を潜めましたが、荒波のごとき激しい起伏、複雑なリズムトラック、スローテンポからグラインドコアまでを行き来する緩急の差、この辺りは変わっていません。2ビートの時間帯が短いので、全作品で最も疾走感&爽快感に欠けるアルバム。つまり少ーしダレるという意味です(笑) しかし漲るパワーは凄い。何が彼らをここまで突き動かすのかってくらいな、執念のヘヴィサウンドです。スレイヤー史上最も聴き通すと疲れるアルバム。


2001年
8th アルバム
注目曲 : #14 「 Payback 」
 本作で唯一ともいえるストレートなスラッシュチューン。語感がよろしくハマります。

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2006年
9th アルバム
Reign In Blood

 ドラマーのデイヴ・ロンバードが復帰し、18年ぶりにオリジナルメンバーが集結の9作目。このアルバム、米ビルボードでは初登場5位にランクインしてましたね。なかなかの快挙じゃありませんか。保守揺り戻しの気運が高まっている昨今の音楽シーンで行き場を失った革新派がスレイヤーに救いを求めた結果でしょうか。これは逆に言えば、未だに大御所を隅に追いやるほどの若手バンドが育っていないという、メタル界自体の低迷を物語っている気もします。
 それはさておき、音の方は・・・速いです!(笑) 前2作品と比べるとストレートな作りで、10 曲中8 曲が快速2ビート込み。リズムトラックは相変わらず凝ってるけど、特段の新鮮味は無いので、これは原点回帰というかマンネリというか、微妙な感じ。スレイヤー狂は何だかんだゆってもこのスピード感に病みつきなんだろうから、その意味ではファンの期待に応えていると思います。ボーカルもまだまだ頑張ってるし、吹き上がる血しぶき! 乱れ飛ぶ肉片! ってな暴虐サウンドは余裕で第一線レベル。それとこのアルバム、非常に語感が良い気がする。重量感も自分にはちょうど良いので、作品としては過去の名作群に負けず劣らず評価してます。もちろん約20年という歳月を考慮しなければの話ですが。
注目曲 : #9 「 Cult 」
 スレイヤーにしては「Aメロ→Bメロ→サビ」と王道に分かりやすく進む先行シングル。イントロでじっくりとタメてスカッと疾走する、いつものスレイヤー節。特にBメロでたまらずブラストするドラムがヤバイ。サビの早口吐き捨ての語感も良い!