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4AD


 パンク〜ニューウェイヴの流れの中から登場した英国発の個性豊かなインディ・レーベルの数々。 普段あまり 「レーベル」 という括りで音楽を捉えない管理人も、4AD の名前は洋楽を聴き始めた早いうちから知っていた。 Cocteau Twins が好きだったというのも間違いなく大きいと思うが、 それ以上にこのレーベルが独自のコンセプトに裏づけされた統一感のある色彩を放っていたのが魅力的に写ったのだろう。
 てな訳で、レーベル探行の記念すべき第一回は 4AD について、そのレーベルカラーが確立された80年代の歴史を中心に巡ってみたい。

1、はじめに闇ありき

 4AD は1979年に英国のインディ・レーベルであるベガーズ・バンケット・レコード ( Beggars Banquet Records ) の資金提供を受け、 傘下レーベル第一弾としてアイヴォ・ワッツ=ラッセル ( Ivo Watts-Russell ) とピーター・ケント ( Peter Kent ) によって設立された。 当初はアクシス・レコード ( Axis Records ) のレーベル名で設立されたが、すでに同名の音楽企業が存在したこともあり 4AD に改名。 耽美系のレーベルで知られ、現在はオルタナ系全般を扱う 4AD も、 まず初めに登場したアーティストはパンク・ムーブメントの息吹を引き継いだ、元祖ゴシック・ロックとして知られる人々だった。



Bauhaus / In The Flat Field (1980)

 バウハウスですよ、バウハウス。音はもはや説明不要。2nd アルバム以降は親会社のベガーズ・バンケットに移籍したので、 彼らが 4AD の看板バンドと言えるかは微妙だけど、初期 4AD のカラーを決定付けた作品として、その影響力は計り知れないでしょ。 1983年にあっさり解散して各自ソロ活動を展開していた彼らも、2008年にオリジナル・メンバー4人揃って再結成し、めでたく新作もリリース。 リアルタイムで聴いてない世代は特別な感慨は湧かないかもしれないけど、 ポストパンクの救世主として当時の来日公演とか観に行った今のおじさま・おばさま方は、やっぱりテンション上がるのかも。



Modern English / Mesh & Lace (1981)

 バウハウスより少し遅れて登場したイギリスのポストパンク・バンド Modern English の 1st アルバム。 なんだか薄気味悪い幽体離脱(?)ジャケ。てか、コクトーの 1st もこんなんだったっけ?  中身の方は、エフェクトたっぷりノイジーに響くギターに性急なビートが駆け巡る退廃サウンド。バウハウスに結構似てます。 次作以降はポップな要素を強めていったようで、アメリカへ進出してスマッシュ・ヒットを記録したものの、 あまり話題にならないままフェードアウトしたので、バウハウスと違って伝説になり損ねた。それでも何気にしぶとく現役活動中。



The Birthday Party / Prayers On Fire (1981)

 今では作家や画家や俳優としてもマルチに活躍する、ロック界の異端児ニック・ケイヴ率いるオーストラリア出身のポストパンク・バンド。 影響力の割りには日本での知名度は今一つだが、彼らもしばしばゴシック・ロックの始祖と見なされる存在。 この作品は The Birthday Party 名義で初めてリリースされたアルバムで、 原始的なドラムのリズムにトランペットなどの音色が入り乱れ、ニック・ケイヴの変態的なボーカルが荒れ狂う、野蛮さ抜群の個性派パンクだ。 The Birthday Party は1983年に解散、その後ニック・ケイヴは Nick Cave and The Bad Seeds 名義で現在に至るまで活動している。

2、美意識の確立

 1982年頃から、4AD の主催者アイヴォ・ワッツ=ラッセルの趣向を反映した、耽美的で幻想的なサウンドを持ち味とするアーティストが登場し、 レーベルのカラーは漆黒の闇からモヤの掛かった多色展開へと塗り替えられていった。その代表が Cocteau Twins と Dead Can Dance であり、 今となってもレーベルの代名詞的存在である。 どちらも圧倒的な存在感を放つ女性ボーカルを擁し、数多くのフォロワーを生み出している。



Cocteau Twins / Treasure (1984)

 "天使の歌声" の異名をとるエリザベス・フレイザーを中心としたバンドの 3rd アルバム。 1st アルバムの頃はポジパン臭さ丸出しのスジバン・フォロワーといった感は否めなかったが、徐々に神がかった個性を発揮し、 このアルバムはイギリスのナショナル・チャートの上位に食い込むなどレーベルの出世頭としての地位を確立。 その後90年代に入ってメジャーのフォンタナに移籍するまで、4AD の看板を背負い続けた。
 コクトー・ツインズは、スジバンやキュアーと並んで、 管理人のダーク・サイド・オブ・ニューウェイヴへの興味を開眼させてくれた思い入れの強いアーティスト。 洋楽にハマリ始めた頃、現実世界には見出せない理想郷をこのアルバムに求めて、取りつかれたように聴きまくったのでした。



Dead Can Dance / Spleen And Ideal (1985)

 オーストラリア出身のブレンダン・ペリーとリサ・ジェラルドの男女2人組ユニット。 後期の作品もそれぞれ素晴らしいが、この 2nd アルバムは彼らの作品群の中でも、最も 4AD のレーベル・イメージにマッチした内容だと思う。 弦楽器やパーカッションを多用した脱西洋文明的な旋律にリズム感、異国小説の世界に迷い込んだようなサウンドスケープ。 「ゴシック+エスノ+宗教音楽」 といった彼らの個性が確立された作品で、80年代の 4AD レーベルを代表する傑作の一つだ。 ユニットは1998年に解散し(2005年に一時的に再結成)、ブレンダンとリサはそれぞれソロ活動を展開している。



This Mortal Coil / It'll End In Tears (1984)

 レーベルの主催者アイヴォ・ワッツ=ラッセルが提唱した企画盤の第1作。 全部で3作品が発表されているが、その都度上述の Cocteau Twins や Dead Can Dance をはじめ、 4AD に所属したり繋がりの深い面子が集まり、豪華オールスターとなって楽曲を提供している。 終始夢想的なアンビエント然とした内容の中に、70年代のアーティストからのカバー曲も幾つか見受けられ、そこら辺にレーベルのルーツを伺わせるのが興味深い。

3、視覚効果との共演

 4AD を語る上で欠かせないものが、同レーベルよりリリースされた作品の数々のジャケットを手掛け、 レーベルのビジュアル面を一手に引き受けたデザインチーム 23 Envelope の存在である。 23 Envelope は、4AD の創始者の一人であったピーター・ケントが1980年に退社した後、アイヴォ・ワッツ=ラッセルに招待された グラフィック・デザイナーのヴォーン・オリヴァー ( Vaughan Oliver ) と 写真家のナイジェル・グリーアソン ( Nigel Grierson ) の2人によって結成された。 ミュージシャンが奏でるサウンドイメージを視覚的なデザインとして巧みに投影させた彼らの芸術的なアートワークは、 4AD 好きのコレクター魂をくすぐる強力なアイテムであり、レーベルのブランド力の形成に大きく貢献したと言えるだろう。 23 Envelope は1988年にナイジェル・グリーアソンが離脱したことで消滅するが、 ヴォーン・オリヴァーは新しいパートナーにクリス・ビッグ ( Chris Bigg ) を得て v23 の名前で再始動。現在も活動中である。
 ちなみに、23 Envelope によるデザイン集は幾つか出版されているようなので、気になる人は調べてみてはいかが?  管理人もうっかり巷で見かけた日にゃ即買いです。

4、マンチェ/レイヴ全盛の予見

 80年代半ばに差し掛かると、レーベルの音楽性はより多角的な方向へと広がっていった。 4AD レーベルに対するパブリック・イメージからすると少し意外に思えるが、 その中にはハウス、レゲエ、ソウルいった黒人音楽の影響が顕著に現れたアーティストも存在する。 Colourbox がその例で、彼らはマッドチェスター・ムーブメントが賑わう前からフロア対応型のビート音楽を鳴らしていた。



M|A|R|R|S / Pump Up The Volume (1987)

 上述の Colourbox と 「ジザメリ meets コクトー・ツインズ」 とも評されたドリームポップ系ユニット A.R. Kane によるコラボレーション M|A|R|R|S 名義によるシングル曲。 ブレイクビーツをサンプリングしたアシッド・ハウスの先駆けとしてこの界隈では有名だそうな。しかし驚くなかれ、なんとこの曲はイギリスのナショナル・チャートを制覇してしまったのである。 後にも先にも 4AD が送り込んだ全英 No.1 シングルはこれ一曲のみだろう。時代の波、恐るべし。

5、米国インディ・ロック・シーンへの接近

 80年代後半になると、「耽美」 や 「ゴシック」 といった従来のレーベル・イメージから離れ、 アメリカのインディ・ロック・シーンに対して積極的にアプローチを仕掛けるようになる。 その代表がボストン出身の Pixies や Throwing Muses である。 彼らは後のオルタナ/グランジ・ブームの源流として重要なアーティストであり、 そう考えるとマンチェ・ブームの時と同様、4AD は地味ながら先見の明に優れているのかもしれない。



Pixies / Doolittle (1989)

 ニルヴァーナのカート・コバーンが崇拝していたことでも有名なピクシーズの 2nd アルバム。 型破りなブラック・フランシスの絶叫ボーカルに、乾いた轟音ギター、それでいて妙にポップ。 旧来のロックンロールともパンクロックともヘヴィメタルとも違う、全く新しいギター・ロックである。 チャート的にはアメリカで98位、イギリスで8位だったことからも、 オルタナ時代前夜のオルタナ系として彼らの特異なポジションが垣間見える。 かく言う管理人は、ピクシーズはあんま好きじゃないんす・・・。



Throwing Muses / The Real Ramona (1991)

 80年代後半にアメリカ出身のバンドとして初めて 4AD と契約した、女性ボーカルをフィーチャーしたインディ・ロック・バンドの 4th アルバム。 フォーキーでナチュラルなポップネスの中に、どこか不調和で歪なパンク精神が潜んだサウンド。 ピクシーズほどの知名度はないけど、この人たちもオルタナ・シーンの影の立役者で、 Hole や Bikini Kill といったガールズ・パンク・バンドへとその系譜は引き継がれていく。

6、その後の状況

 90年代に入ると 4AD レーベルはロサンゼルスにもオフィスを構え、多国籍化に一段と拍車が掛かっていくが、 1999年にはアイヴォ・ワッツ=ラッセルは、持ち株をベガーズ・バンケットへ売却。 その後も 4AD レーベル自体は存続し、インディ・ロックをはじめ、シューゲイザーやドリームポップ、フォークからワールド・ミュージックに至るまで、 オルタナ系全般を扱う草食系(?)レーベルとして、現在も若いミュージシャンを静かに輩出し続けている。 ひょっとしたら、21世紀の新たな音楽シーンの動向の鍵は 4AD レーベルに隠されているかもしれない。



Le Mystere Des Voix Bulgares (1986)

 時代は遡って、最後にこちらをご紹介。本作は 「ブルガリアの神秘の声」 と題された民族音楽で、 このシリーズは後に4作目までリリースされている。 女声によるコーラスをメインに一部民族楽器を交えた一風変わった内容なので、浮世離れしたエキゾチックな声楽が聴きたい人にはオススメだ。

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