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Earache Records


 昔どこかの本で 「ロックの本質は "過激" であることだ」 という文章を読んだことがあるが、これには私も同感だ。 ロック・ミュージックの古典として語られるエルビス・プレスリーもビートルズも、 出てきた当時は良識を備えた大人たちが眉をしかめたくなるような過激な存在だった。 そして今振り返ってみると、ロック・ミュージックの歴史は過激さの更新作業であるように思えてくる。 過激なまでに速く、過激なまでに重く、過激なまでに硬く、過激なまでに暗く、 過激なまでに遅く、過激なまでに狂的に、過激なまでに恍惚的に、過激なまでに旨みゼロに・・・。 このように一口に過激といっても、その表現手段は多種多様である。 つまるところ、ロックの史書に名を残したければ、何らかのベクトルで過去最高値を叩き出せばよいのである。

 ・・・とまあ、以上グダグダとゴタクを並べてみたが、結局何が言いたかったのかというと、イヤーエイク最高〜! ただそれだけのことだ(笑)  なぜ最高かって? そりゃあ決まってる、イヤーエイクは過激なロックが満載なのだ。 てな訳で、レーベル探行の第三回は、イヤーエイク発の歴史に残る過激なアーテイストと、その作品を並べて満足感に浸るという企画です。

1、ハードコア・パンクの最終進化形ナパーム・デス

 イヤーエイク・レコードはグラインドコアやデスメタルを中心に扱う英国のインディ・レーベル。 1985年に設立された当初は、オーナーのディグ・ピアソン ( Digby 'Dig' Pearson ) によるごく小規模なものだった。 これに先立って彼はハードコア系のコンピレーション・アルバムを出していたが、 「イヤーエイク (=耳痛) 」 というナイスなレーベル名が定着してからは、リリース作品にカタログ番号、その名もズバリ MOSH を付けるようになる。 記念すべき MOSH 1 と MOSH 2 はそれぞれ The Accused と Heresy というハードコア・パンク・バンドの作品が並ぶが、 続く MOSH 3 でかの生きる伝説的グラインドコア・バンド Napalm Death のデビュー・アルバムが登場する。



Napalm Death / Scum (1987)

 はじめに重低音ありき。そしてブラストビートと言葉にならない絶叫が壮絶に入り乱れ、"グラインドコア" なる未開の境地を切り開いたエクストリーム・ミュージックのバイブルだ。 1981年にバーミンガムで結成されたナパーム・デスは、 パンク〜ハードコアの潮流の中でその過激なエッセンスのみを極限までに追求することで独自のスタイルを確立した。 本作は彼らのデビュー作にしてパンク〜ハードコアの第一の終着点なのである。



Napalm Death / From Enslavement To Obliteration (1988)

 『 Scum 』 はその凄まじい内容から、予想に反してマニアの間で話題となった。 続くこの 2nd アルバムは前作にも増してエクストリーム化が推し進められ、英国のインディ・チャートでも2位に食い込む快挙を達成。 かの天下の BBC ラジオまでもが彼らの曲を流した(!)というエピソードからも、その勢いが分かるだろう。 (NHK も見習ってほしいねえ)  この2枚のアルバムでナパーム・デスの偉業は決定的なものとなり、イヤーエイクの名は世界中のアンダーグラウンド・シーンに浸透していった。

2、ナパーム・デスの末裔たち

 上述の2枚の名盤を残したナパーム・デスのメンバーたちは、「ここでやるべきことは終わった」 と言わんばかりに次々とバンドを去っていき、 新たに自分のバンドを立ち上げて各々が追求する別の意味での過激さを研ぎ澄ましていく。 元ナパーム・デスの肩書きを持ったミュージシャンのバンドは数多いが、 以下の4作品はナパーム・デスという大木からいち早く枝分かれしたバンドの初期の代表作して有名だ。



Carcass / Symphonies Of Sickness (1989)

 ギタリストのビル・スティアーが結成したカーカスは、歌詞やアートワークにグロテスクなモチーフを徹底的に用い、 生理的に不快感を催す "ゴアグラインド" なるジャンルを生み出した。 ビルとジェフのツイン・デス・ボーカルとぐちゃぐちゃな重低音とブラストビートが胃の中で激しく混ざり合い、吐き気を催すこと必至の傑作 2nd アルバム。 次作からは Carnage のギタリストであったマイケル・アモットがバンドに加入し、 ツインギターによる流麗なメロディーを全面に押し出すことで、"メロディック・デスメタル" への道を切り開いていく。



Cathedral / The Ethereal Mirror (1993)

 ナパーム・デスのボーカルであったリー・ドリアンとカーカスのローディであったマーク・グリフィスを中心に結成されたカテドラルは、 ナパーム・デス時代の激速サウンドからは想像もつかない 「激遅」 サウンドを展開。 かつてのブラック・サバスを彷彿とさせる極太グルーヴが低い重心を保ったままじっくりうねるスタイルは "ドゥーム・メタル" と呼ばれ、その地位を確立した。 この 2nd アルバムはファンの間でも最高傑作の呼び声の高い一枚。



Godflesh / Streetcleaner (1989)

 ギタリスト兼ボーカルであったジャスティン・ブロードリックが結成したゴッドフレッシュの 1st アルバム。彼らもスローテンポで進行する激重グルーヴが持ち味だが、 上述のカテドラルとは少し違って、彼らの場合は機械仕掛けのビートと冷徹なギターリフによる破壊サウンドが、どこまでも無機的で工業的な印象。 ジャンク/ノイズ、インダストリアル・メタル、ポスト・メタルなど、各ジャンルの源流の一部をなす存在として、その影響力は計り知れない。 ジャスティンは現在は Jesu にてシューゲイザーや音響系に接近した恍惚メタルを繰り広げている。



Scorn / Colossus (1994)

 ドラマーであったミック・ハリスが同じく元ナパーム・デスのボーカル兼ベースであったニック・バレンと組んで結成したバンドの 2nd アルバム。こちらはエレクトロ色が濃く、ダブ的な処理を施したベースラインとギターノイズが幾層にも歪みながら襲い掛かるバッド・トリップ系サウンドだ。 日常の時間軸がすっかり狂ってしまって、元の世界に戻れなくなるようなヤバイ雰囲気。 他の3バンドと比べて知名度は低めだが、ダーク・アンビエント系やエクスペリメンタル系としても一級品だ。 なお、ミック・ハリスはアヴァンギャルド・ジャズ・バンド Painkiller の結成メンバーでもあり、 グラインドコア・バンド Extreme Noise Terror でも一時期ドラムを叩いている。いずれもイヤーエイクのバンドだ。

 以上のように、ナパーム・デスの遺伝子は様々な形で継承ないしは突然変異を起こし、新しいジャンルを生み出していった。 一方の本家ナパーム・デスは頻繁にメンバーチェンジを行いつつ、 アルバム毎に作風を微妙に変化させながら、グラインドコア/デスメタルの大御所としてシーンに君臨し続けている。
 あとついでに、ナパーム・デスとその分家の変遷を樹形図にした PDF ページを見つけたので是非。 → こちら

3、国際色溢れるエクストリーム音楽のるつぼ

 こうしてみると、「イヤーエイクの半分はナパーム・デスで出来ている」 といっても過言ではなさそうだが、 この他にもレーベル草創期から活躍した重要なバンドは数多く存在する。 国籍もイギリスに限らず、アメリカ、北欧など様々入り乱れ、互いに影響を及ぼしながらエクストリーム界を熱く盛り上げている。 以下に紹介するバンドは、そのごく一部にすぎない。



Morbid Angel / Blessed Are The Sick (1991)

 「デスメタルの魔王」 の異名をとるバンドの 2nd アルバム。 Death や Obituary や Deicide らと並んで、アメリカのデスメタル黎明期を支えたフロリダ勢の最古参バンドの一つで、 現在に至るまで作品のほぼ全てがイヤーエイクからリリースされている。 サウンド的には昔風の純デスで比較的ハードコア色も濃いが、 荘厳なオルガンやアコギ、はたまたピアノを用いたイントロが収録されているなど、一風変わった側面もあり。



Entombed / Clandestine (1991)

 スウェーデン出身のデスメタル・バンドの 2nd アルバム。 北欧のデスメタル・シーンを形成した重要なバンドの一つで、初期の作品はイヤーエイクからリリースされている。 デスメタルらしくジリジリとエッジの効いたギターに、 モーターヘッドにも通ずるロックンロール的な疾走感を融合させたスタイルは "デス・アンド・ロール" ( Death'N Roll ) と呼ばれ、 バンドの個性として際立っている。こちらも現役活動中。



Cadaver / ...In Pains (1992)

 ノルウェー出身のデスメタル・バンドの 2nd アルバム。 彼らは活動初期はプログレ的な要素もあり、本作では曲によってはフルートや弦楽器の音色をフィーチャーしている。 バンドは1993年に解散するが、1999年に再結成してからはブラックメタル化が進み、(そもそもボーカルの声がブラックメタル的)  ライブではコープスペイントを施したパフォーマンスを披露しているらしい。 しかし、このジャケットは嫌悪感抜群(笑) 目玉がグリっと・・・。



Dub War / Pain (1995)

 1993年に結成され1999年に解散したイギリス出身のミクスチャー・バンドの 2nd アルバム。 サウンド的には Fishbone にも通ずるレゲエ系パンク・メタルといった趣で、ボーカルも快活に歌ったりシャウトしたり。 The Clash や Bad Brains など、古くからレゲエとロックの融合は珍しくはないが、 イヤーエイクにこういうバンドが存在していたとは、なかなか掘り出しもの。かなりカッコいいです。

4、エクストリーム音楽の最終兵器?

 エクストリーム野朗が群雄割拠するイヤーエイク・レコード内で、一際前衛的なスタイルでカルト的な支持を集めるバンドが Anal Cunt である。 バンド名があまりにも卑猥なため、しばしば AxCx と表記されることもあるが、あのバンドロゴのせいで伏字も台無し(笑)



Anal Cunt / Everyone Should Be Killed (1994)

 バンドの 1st アルバムで邦題は 『皆殺しの唄』 。58曲入りだが、実際はトラック内にもっと曲数が詰め込まれているとか。 彼らはナパームデスが確立したグラインドコアを基本としつつも、より徹底して音楽としての体裁を無視、歌詞も全く存在しないと公言。 ひたすら耳障りなギターノイズと絶叫ボーカルの応酬で聴き手に理解する隙を与えないサウンドは "グラインド・ノイズ" と呼ばれ、 新たなジャンルを切り開いた・・・とされるが、そんなこと言われてもねぇ。ちなみに私はこのアルバムは持ってませんので悪しからず。

5、未来への展望

 ロックの誕生、プログレ全盛、そしてパンク革命を経て、ロックが様々な形で進化し続けていった結果、 今となっては先人を超える過激なサウンドを生み出すことは容易ではなくなっている。 シーンに目を向けてみると、ポスト○○だとか、○○リバイバルだとか、そういう言葉を頻繁に目にするが、 それは既聴感のない全く新しいサウンドが作れなくなっていることの裏返しに他ならない。 2000年代に入ってからは、ポスト・ロック/メタルな美しいドゥーム・サウンドがちょっとした流行となったが、 それも今や飽和状態の感は否めない。 やはり、ロックは死にかけたジャンルなのだろうか?  その疑問に対する答えは、やはり10年20年待ってみないと分からないだろう。 まあ分からないなら分からないなりに、 未来のイヤーエイク・レコードからとてつもないエクストリーム・ミュージックが現れることをささやかに期待して、 このしょーもない企画を締めくくりたい。

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